chunkymonkey

レント ライヴ・オン・ブロードウェイのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

5.0
先日「tick, tick... BOOM!」をめちゃくちゃお勧めしたのですが、やはりRENTを知らなかった方の低評価が少し目立つのでちょっと反省(そもそも知らない方がたくさんいらっしゃることに驚きと世代の差ですねぇ... 私もお年を取ったものだ、ちーん)。それでも皆さんRENTを見てみたいと書かれていたので、舞台に抵抗がなければぜひ映画版でなく千秋楽を映像化したこちらをお勧めします。まずはRENTの概要と特徴、その後に映画版との違いについて記載しますね。

基本的にはプッチーニのオペラ作品「ラ・ボエーム」の現代版で、舞台をパリからニューヨークに、病気を結核からAIDSにしたミュージカル作品です。ストーリー、役名、場面設定と展開、メロディに歌詞、マクロの視点でもミクロの視点でもかなり忠実できれいに「ラ・ボエーム」とリンクしていてとても面白いです。そもそも「ラ・ボエーム」自体、第二幕の最初に子供の集団が楽しい感じでわーっと出てくるのでそのお友達もよく観劇に来てたりしますが、オペラの中でも群を抜いて親しみやすい作品です。そう、このRENTの特徴もまさに親しみやすさ。舞台の向こう、違う世界で何かが起こっているのではなく、舞台の俳優たちと一緒に笑って一緒に泣く感覚、これがまず特徴その一で、これはRENT後に作られたミュージカルの基本になっています。今では多くミュージカルが取り入れている前の席のチケットを先着やクジでばらまくのもこのRENTが始まりで、原作の選び方から如何に幅広くいろんな人に親しんでもらうことにこだわったかがわかります。

もう一つの特徴は楽曲の質の高さ。様々なジャンルの音楽を取り入れながらもここまで全曲高い質を保てているものは、クラシック出身のいわゆる巨匠たちのミュージカル作品を探しても見当たりません。なかなかこれは真似できるものではありませんが、緩急にこだわらず高い曲のエネルギーでもって最初から最後まで押し押しでいくスタイルは現在でも脈々と受け継がれていると思います。

映画とのはっきりした違いは、先程述べた親しみやすさにも関係しますが一番有名なSeasons of Loveの歌われる箇所で、舞台では後半の最初に歌われます。休憩中も幕は下りず、そもそも舞台転換がほぼないので最初の状態のまま野ざらしで観客は休憩モードでおしゃべりしていたところ、照明も明るいまま突然わさわさ俳優がステージに現れて一列に並びいきなりこの曲を歌い出します。舞台という別世界に入らないまま休憩の日常からそのまま曲に入り一緒に手拍子、最高ですねー。

もう一つの映画との違いは、AIDSのライフサポート会などメインキャスト以外の活躍です。この映画では端折られているところがいいんですよ。いわゆる市井の人々のキャラクターによる笑い・喜び・悲しみ・怒り、あらゆる感情が生々しく渦巻いていて、チョイ役が本当に輝くようにできています。「tick, tick... BOOM!」を見ると、多分なかなか日の目を見ない俳優たちにチャンスを与えたかったのではないでしょうか?

RENT後にも素晴らしいミュージカル作品はたくさんありますが、やはりいずれもRENTがあったからこそ生まれた作品。RENT前、RENT後は本当に紀元前・紀元後みたいなもんです。ミュージカル年表を作ったらRENT初演はそこだけ太字にしていい勢い。AIDSを取り巻く状況は大きく変わって今じゃあAIDSになっても薬飲んでパートナーを愛そう的なCMがバンバン流れていますが、このミュージカルの素晴らしさは25年経った今も全く変わらず、ツアーチケットは完売御礼です。まさにRENTは永遠!
chunkymonkey

chunkymonkey