zhenli13

ハッスルのzhenli13のレビュー・感想・評価

ハッスル(1975年製作の映画)
3.8
プロットがいいし随所でアルドリッチの醍醐味が見えて面白いのに何を主眼に置くかの選択をミスってて、いや実にもったいないなーと思った。バート・レイノルズとカトリーヌ・ドヌーヴのロマンスに時間割き過ぎ。ともすれば『キッスで殺せ!』『ふるえて眠れ』『傷だらけの挽歌』あたりに匹敵する犯罪ノワールになったかもしれないのに。エディ・アルバートが公衆電話ごしに労働組合員の爆殺を確認するシーンなどほんとにノワールぽい雰囲気で好いし、照明の明暗をかなり強くしたカメラワークも効いてる。

完全な善人がいなくて、誰もが汚い部分を持ってて容赦なくてそのなかで何を貫くか、というアルドリッチの真骨頂は見える。男も女も容赦なく殴る。また、しがない中産階級アメリカ人や職業の貴賤、有名無名への言及が散見される。織物工場で人質をとる顔馴染みの累犯者と対峙するシーン(ここもすごく好い)にもそのあたりが垣間見える。序盤ではただのきっかけに過ぎないと思ってたベン・ジョンソンを物語のキーにしたところも、無名の者にフォーカスするアルドリッチの判官贔屓と言えるかも。

ベン・ジョンソンが朝鮮戦争帰還兵でPTSDに苦しんだことや娘への妄執に近い執着(娘を回想するドリーミーなクロスディゾルブが哀れ)や警察のお世話になる犯罪者たちの振る舞い(アルビノのアフリカ系アメリカ人や靴フェチの男のシーンが面白い)など、どこかいびつさをもった人々の描写はアルドリッチならでは。そのいびつさは、アメフトの結果を気にしながら、自殺した娘の遺体がある安置所へ父親を案内するレイノルズたちの描写でも示される。

溺愛していた娘が裏稼業に身を落としたことで家族に問題があったのは自明の理で、過去の事実をレイノルズに告げる母アイリーン・ブレナンの演出がまた巧い。序盤で警察に呼び出されたときはただのやつれたオバさんだったのが、セクシーなレイノルズと会うときはキメキメのメイクで嬉しそう。
このあたりで、職業としてたくさんの男と寝るドヌーヴと、夫のいない間に男と密会していた現場を幼い娘に見られたブレナンとの違いは何なのかということの提起となる。それと同時に、娘に執着し彼女がポルノ映画に出演していた事実を知り涙するジョンソンと、恋人が男たちと関係を持つ仕事であることに耐えられなくなるレイノルズの違いは一体何なのか。そういう対称性を浮き上がらせてる。

全然関係ないけどドヌーヴがいつもブラッディメアリーを飲んでるのは『ハンガー』への布石なのだろうか…(な訳はない)


アルドリッチ先生の未見作品、いま日本で観られるものでは『フリスコ・キッド』『ソドムとゴモラ』を残すのみ。さみしい。
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