針

ヨコハマメリーの針のレビュー・感想・評価

ヨコハマメリー(2005年製作の映画)
3.8
ごく最近まで横浜に実在した「メリーさん」という、顔を真っ白に化粧した街娼の足跡を辿ったドキュメンタリー作品。
このメリーさんというのはいわゆる横浜繁華街の「名物」のような人物で、街ではいつものように歩いている姿を見かけられたそうです。

構成としては、彼女と関わりのあった人たちへのインタビュー群からメリーさんの生涯を間接的に浮かび上がらせつつ、彼女の存在を通して横浜という街の戦後の移り変わりをも垣間見させるという感じ。個人的にはこの間接的で垣間見させる語りというのが一番のキモなのかなと思います。

メリーさんは店舗や組織に所属しない街娼として暮らしてきて、いつも堂々としていて気位の高い人だったらしく、深く親交のあった人がほとんどいない。彼女の通っていたクリーニング屋や美容院の方の証言をメリーさんの白黒写真で補強しながら語っていくけど、じつは最後まで観ても彼女の生涯はそんなに詳細には分かりません。全体像が朧ろに浮かび上がるだけ。そしてそこにむしろ、「他人を知る」ということに対する慎ましさのようなものを感じて、自分は好ましかったです。

おそらく彼女ともっとも親しくしていた永登元次郎(ながと-がんじろう)という地元のシャンソン歌手の方が登場し、メリーさんの代わりに彼の人生が主観的に掘り下げられ、その反映としてメリーさんの人生にも思いを馳せさせるような仕掛けもあるのかなと。彼の歌がすごくいいのもあって自分はけっこう感動してしまった……。

驚くようなことはあまりないけど、ガッチリ手堅い感触のドキュメンタリーだと思いました。ところどころフィクション作品っぽいショットを入れたり、音声と画面の効果でエモーショナルを掻き立てたりして、映像作品としての厚みもけっこうあるかなーと。

(最近一度でいいから山形国際ドキュメンタリー映画祭に行ってみたいなーと思っていて、そのためには事前に多少はドキュメンタリーを観て“抵抗力”をつけないとなーとか思っています。)

終盤の感想はコメントで。
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