こたつむり

異国の出来事のこたつむりのレビュー・感想・評価

異国の出来事(1948年製作の映画)
3.9
★ 綺麗ごとだけでは終わらない世界

これはなかなか感想に困る作品ですね。
何しろ舞台は戦後のベルリン。
建物の壁は壊され、道端にガレキは転がり、その片隅で闇市が開かれている…そんな混乱に満ちた中で繰り広げられる“ラブコメ”ですからね。

主人公はアメリカから視察に来た女性議員。
戦後復興にかこつけて羽目を外す軍人たちの様子を伺いに来た…という流れなので、チョコレートバーをダシにしてナンパする軍人…なんて場面もあるわけで。敗戦国の立場で言えば微妙な感情になるのも仕方ないのです。

ただ、そこはビリー・ワイルダー監督。
一筋縄ではいきません。
戦勝国の都合を上から押しつけているように見えますが、一歩引いた視点で舵を取っているのです。うーん。このバランス感覚には惚れ惚れとしますね。

だから、気がつけばグイグイと前のめり。
しかも、あえてポイントをずらしているから余韻が重厚なのです。「正義とは何か」と考えてしまう喜劇なんて滅多にないですよね。

また、主演のジーン・アーサーは当時48歳。
いやぁ。若々しいですねえ。
確かに露出が多いドレス姿には肩を竦めたくなりますが、ドイツ人と間違えられてナンパされる場面での立ち振る舞いは見事な限り。

それに相対するのはマレーネ・ディートリッヒ。もうね。怖いです。ガクブルです。何ですかね、あの貫禄。確実に肉食動物の一種ですよ。不用意な言動をしたら、研ぎ澄まされた爪と牙でガブリとされるのは間違いないなし。うへえ。

まあ、そんなわけで。
戦後復興処理を題材に描かれるラブコメディ。
監督さんの作品としてはマイナーな部類ですが、知名度の低さで切り捨てるのは勿体ないと思います。また、鑑賞する際は“政治的な思想”を片隅に置いてから臨むことをオススメします。
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