イルーナ

ピーウィーの大冒険のイルーナのレビュー・感想・評価

ピーウィーの大冒険(1985年製作の映画)
4.0
鬼才ティム・バートンの、記念すべき長編デビュー作。
「題材が気に入ったし、気楽そうだから」という理由で引き受けたという本作。要は雇われ仕事。
しかし出来上がったのは……最初から最後までポップ、キッチュ、シュールというバートン色たっぷりの怪作でした。

まず最初の朝食ピタゴラスイッチからしてとにかくワクワクするし、窓から外を眺めてるかと思ったら、魚が出てきて実は水槽だったことが分かるシークエンスも好き。
もうこのギミック山盛りの自宅シーンだけでもセンスというものを感じる。
この物語の主人公ピーウィーは妙にオカマっぽい風貌に加え、言動は完全に子供そのもののオッサンでけたたましい奇声を上げてくるという、まあ何とも狂気度の高いキャラクター。
それがある日買い物に行ってる間に大切な自転車を盗まれた!ことから始まる大暴走。
(自転車盗難が発覚してとぼとぼ道を歩く中、周囲の人々は皆色々な自転車に乗っている……という演出が妙に印象的だった)
警察に「自転車の盗難なんてごまんとあるから」と相手にしてもらえなかった彼は懸賞金1万ドル(しかし払う気ナシ)をかけたり、ラジオ局にかけあったり、近所の人を集めて説明会を開いたりするが上手くいかない。
しかし占い師から「アラモ砦の地下にある」と(インチキ)お告げをもらったことで、長い旅を始めるのだった……

この旅の様子は、助けてくれる人がふらっと現れたかと思ったらふらっと去っていく。
で、狂人と仲良くなれる人たちなので、当然変な人の方が多いわけで。脱獄囚とか暴走族とか。
幽霊のトラック運転手のおばさんなんか、あれ絶対ストップモーション顔芸やるためだけに出したでしょ(苦笑)
これら個々のエピソードは本当に思いついたイメージを並べてそのままお出しした感じで、磨いてマイルドにしたり余分な所は削ったりとかしてないんだろうなぁ……というのが伺える。
こんな調子が終始続くので、当時酷評されたのもわかる。
逆に言えば、粗削り故に妙なエネルギーに満ちているとも言えるのですが。

そして何といっても、クライマックスのワーナースタジオ討ち入り!
自社に討ち入りを許すというシナリオを通す自虐もアレだけど、やっぱりゴジラVSキングギドラ戦の撮影現場があったのが本作最大のハイライト。
バートンの子供時代の夢は、ゴジラの役者になること。そしてその頃から強い破壊願望もあった。
憧れの怪獣たちを自作に出演させたばかりか、ピーウィーを撮影現場の破壊者として描く!
ついでにクリスマス映画も被害に遭っているあたり、もう初期も初期から「クリスマスの破壊者」が登場しているのにも驚く。
撮影所チェイスを繰り広げた後、火事のペットショップから動物たちを逃がす……という展開があるけど、嫌いな蛇だけ中々逃がそうとしない辺り素の性格の悪さがにじみ出る。
(動物たちをホイホイ外に逃がすのは色々問題になりそうだけど、そこは秩序の破壊者バートンの作品なので……)

で、そこでの活躍が認められたピーウィーは、君の物語は素晴らしい映画になるとワーナーから申し出を受ける。
その作品のタイトルは『ピーウィーの大冒険』。お、ここからメタ展開か?と思ってると……絶妙に外してくる!
何故かスパイものになった挙句、当のピーウィーはベルボーイというモブ役。ついでに音楽も007シリーズそっくり。
これって元の企画からどんどん内容が変わって、最終的に全くの別物になってしまう映画界への皮肉か……?
でもピーウィーはそんなこと気にせず、近所の人や旅先で出会った人たちと共に映画を楽しみ、食事を振る舞う。
そして彼女に「最後まで見ないの?」と聞かれて「見る必要ないよ。あれは僕だ」と返して終わるというピュアさ。

いやー、「処女作にはその人のすべてが表れる」とはよく言いますが、『ヴィンセント』共々強烈でした……

アニヲタwikiにまとめた記事
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/53206.html
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