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闇のバイブル 聖少女の詩のemilyのレビュー・感想・評価

闇のバイブル 聖少女の詩(1969年製作の映画)
4.3
 厳格な祖母と二人で暮らすヴァレリエ。村に来た旅一座の中に不気味な物を見てしまい、それにとりつかれるように悪夢にうなされるようになる。そこから彼女の摩訶不思議な一週間が始まる。

 裸足で駆け出すヴァレリエ、足元を幻想的に映し、そこに咲く花に赤い滴が滴り落ちる。なんとも詩的でロマンティックな描写であろう。彼女は13歳、初潮がきて女として体が芽生え始める瞬間である。白塗りの祖母と一緒に暮らしている。しかしこの1週間で祖母の女の部分を見ることになり、やがて黒に、ドロドロと血の匂いの漂う吸血鬼に変貌していく。体の中に芽生える女としてのとめどなく溢れるどろっとした生の香りと、まだ聖少女のままでいたい穢れたくない感情が交差し、生み出す幻想の世界が、現実の世界と並行し、少女ならではのゴシック感満載の世界が作り上げられている。

 イメージを切り貼りしたような両極の世界を白と黒のコントラストで見事に交差させ、耳飾り、繰り返されるティタイム、聖なる物と、性なる物をミックスし、小出ししぐるぐると交差させていく。一つ一つに意味がないようで、純愛、父親への愛、男女の欲望と普遍的な感情の連鎖を、少女目線で追うことで、ファンタジー感が見事に交差し、美しくグロテスクな世界が出来上がっている。それは怖いものから目を離せないあの感覚に似ている。大人と子供のはざまで、少女と女の隙間の危うさをシューレアリズムのリズムに乗せ、見事に体感したことのない世界を見る。無知ほど怖い物はない。彼女の幻想、夢、現実の交差される世界は、彼女の頭が作り上げた物。まだ知らない、だからこそ知りたい。怖い物に興味を持つ心理が生み出す魔物の世界、そうして現実を知った時、その世界は普通でつまらない物になってしまうのだろう。
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