青山祐介

菩提樹の青山祐介のレビュー・感想・評価

菩提樹(1956年製作の映画)
4.0
『神は扉をお閉めになる時は、必ず窓を開けてくださるものよ…』

原題はDie Trapp-Familie。十代の頃に観た映画との再会です。その時に受けた印象はまったく変わっていませんでした。オーストリア海軍の、男やもめの厳格な父親から7人の子供たちの養育を託された修道女が、音楽を通して、結婚、世界恐慌、ナチスの台頭、アメリカへの移住と、困難な時代を、実に陽気に、力強く、優しく、生きていきます。この作品を観ると、今でもその頃の自分に帰ったような気がします。個人的にも家庭的にもいろいろな事があったからなのでしょうか。
映画の封切にあわせ回想録が出版されます。(マリア・フォン・トラップ「菩提樹」中込純次訳三笠書房1957年)
1965年、この作品をもとにしたミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」が公開されます。リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタインのオリジナル曲は素晴らしいものですが、私には「菩提樹」の方がより懐かしく身近に感じられます。
1933年の金融恐慌で財産を失った一家はフォン・トラップ邸を神学生に貸出し、宿舎付のフランツ・ヴァスナー神父に歌の指導をうけ「トラップ室内聖歌隊」を結成、アメリカに渡ってからは「トラップ・ファミリー合唱団」として活躍いたしました。映画では、合唱団がすでに解散していたために「レーゲンスブルグ少女少年合唱団」が歌っています。
そして何と言っても、ドイツのデボラ・カーと言われた「ルート・ロイヴェリク」の美しさです。彼女の名前がつけられた薔薇の品種があるほどです。
映画の終盤、一家はシューベルト≪冬の旅≫の第五曲「菩提樹」を歌います。バリトンもいいですが、合唱団のア・カペラに近い合唱は何と優しく響くことか。三連符のピアノの伴奏をヨーデルで歌い、ホ長調から短調に変わる第5連になると、思わず涙が出てきてしまいます。
ルート・ロイヴェリクは、「冬の旅」のバリトン歌手、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウと、1965年に結婚いたします。
青山祐介

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