イルーナ

バットマンのイルーナのレビュー・感想・評価

バットマン(1989年製作の映画)
3.8
ティム・バートンの名前を不動のものにした、ご存じアメコミ映画の金字塔。

これもしかして、80年代末期という時代を考えるとかなりエポックメイキングな作品だったのかな?
それまで「ダークヒーロー映画」というジャンルって……ほとんど無かったよね?
調べたら、当時のアメコミ界はリアルかつシリアスな路線へと移行しており、そのムーブメントの中で生まれた作品らしい。
全編通して闇と霧が立ち込めたダークな絵作りのゴッサムシティ。まるで、フィルムノワールでも見ているかのよう。
同時に、街の雰囲気はアール・デコ調の、ゴミゴミしていながらどこか幻想的な世界観。
バットモービルは今見ても古さを感じないカッコよさ。
そしてジョーカー一味はけばけばしいカラーリングで、まるで子供っぽい無邪気さと残酷さを表したかのよう。
うーん、相反するものが共存する、このバランス感覚よ!

バットマンをマイケル・キートンが演じることについて当時はファンから非難轟々だったそうですが、これ日本人の感覚だと「西川のりおがバットマンを演じます」と言われたようなものだったんでしょうか。
そのまま観てる分にはまったく違和感はないけど、前作の『ビートルジュース』、特に吹き替え版を観てたらそのギャップに驚かされるばかり。
この印象が強烈だったから、そりゃ非難轟々にもなるわけだ……
それだけに、前評判を覆したキートン、そしてキャスティングしたバートンの慧眼っぷりに感服です。
演出も、どちらかというとヒーローというより「怪人」チックに描かれていたのが印象的。
闇の中からいつの間にか舞い降りるように現れ、仕事人のように寡黙。その背景も必要最低限しか語られない。
後述のジョーカーが「動」ならこちらは「静」。それが神秘性を引き立てる。

そして何といってもやっぱり見所はジャック・ニコルソン演じるジョーカー。
ぶっちゃけジョーカー化してから本作の本領発揮という所で、やりたい放題感が楽しい。
(逆に言えば序盤は世界観の説明に徹しており、結構地味な展開だったりする。ここは美術をじっくり堪能しましょう)
握手で相手を焼き殺したり、美術品を荒らしたり、パレードで札束バラまいたり。あの笑い声は強烈だ……
バートン作品と言えば「祝祭」が重要なファクターですが、初期からすでにガッツリと描かれているので驚く。
しかしメインでやってることはぶっちゃけ、バットマンとの「女の取り合い」。
凄く久々に観たので、「え、こんなにスケールの小さい話だったのコレ?!」となりました。
一応街中に毒物を撒くという、悪役らしいこともやってはいるのですが。
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