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舟を編むのYAEPINのレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
3.7
とある出版社の辞書編集部にフォーカスした作品。
辞書編集は、言葉そのもの、そしてその用例を収集することを通して、今の世の中を捉えていく作業だと実感する。

集めた語句の区分と選定、そして語釈の記載、誤字脱字チェックなど、、非常に地味で細すぎる目検作業が延々と続き、考えるだに気が遠くなる。
今の時代はもう少しシステム化して効率的になっていることを祈るばかりだが、言葉というものが人間によって流動的に変化するものである以上、特定のルールに当てはめることが出来ず、人の目を介して判断するしかない部分は大きいだろう。
丹念に粘着質に、ひとつのものと向き合っていける人物でないと到底成し遂げられない偉業であることが分かる。

そして、本作ではそれに耐えるようなキャラクターがきちんと配置されている。
松田龍平演じる馬締くんを初めとして、辞書編集部のメンバーそれぞれが、言葉や周囲に実直に向き合う人物として描かれる。
一見お気楽で軽薄に見えるオダギリジョーも、人情に厚く、愛情深い。スカしていると思いきや、「ダサい」ほどの熱さを見せるギャップが素敵だ。

馬締くんが10年以上間借りしているボロ下宿のおかみさんや、その孫で女性として板前修行に励むかぐやちゃんといった周囲の登場人物も、内気な主人公の心を開かせ、前向きな影響を与えていた。

基本的にあまり大きなトラブルは起きず、地味といえば地味だが、10年以上の歳月をかけてひとつの本を作り上げること自体が途方もないので、飽きずに観ていられる。
ただ、物語上で時代が一気に下った間に、どんな作業を行っていたかが気になった。

また、押しが弱く声が小さい、いかにも営業には向いていない馬締くんを、初めに営業部に配属させた人事にはなかなか納得できない。

なにはともあれ、三浦しをん作品の登場人物になって、朗らかに慎ましく幸せに暮らしたい。
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