かなり悪いオヤジ

王になった男のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

王になった男(2012年製作の映画)
3.9
サイコパスな権力者からウンコチビりの泣き虫ピエロまで、本作品で演技の幅広さを見せてくれたイ・ビョンホンの魅力全開の一本だ。日本では徳川家康が江戸幕府の初代将軍だった頃、朝鮮王朝に実在した15代光海君にもしも影武者が存在していたとしたらこうなったであろう、という歴史改変フィクションである。

最近大河ドラマ以外、TVで時代劇にお目にかかることがほとんどなくなってしまった。韓国では本映画の大ヒットによってTVドラマも作られたようなのだが、内容的にはけっしてドラマの範疇を超えているわけではない。宮廷内のシーンがほとんどで、しかも映画らしいド派手な戦闘やエロい絡みがあるわけでもない。政敵による暗殺を何よりも恐れてビクビクしている王様のお話なのである。

映画の予算を余計なシーンに使わなかったことが功を奏したのだろうか。ラスト・エンペラーに匹敵するエキストラはたとえ用意できなかったとしても、王様に出される料理や衣装、セットには、TVドラマとは一味違ってそれなりのお金をかけているように見えたのである。宮廷ドラマの場合、その辺が安っぽく見えてしまうと、全てが嘘っぽく見えてしまうことを本作スタッフはよくご存知なのだ。

大統領が変わる度に前大統領が逮捕されたり自殺するお国柄ゆえか、暗殺に対して過剰とも思えるほどに警戒する竜顔(ビョンホン)。信頼できるのはホ・ギュン(リュ・スンリョン)ら一部の側近のみ。王妃(ハン・ヒョジュ♥️)をも疑って寝床に近づけない警戒ぶりだ。側室とすごす夜の間だけ息抜きしたい竜顔は、自分にそっくりな男を影武者に仕立てようと計画する....

要するに宮廷内は政敵だらけで、夜もおちおち寝ていられないのである。普通に考えると黒澤の『影武者』みたいにドロドロとした展開になるところ、判官贔屓の陽気な影武者のキャラが、陰惨な政争ネタに“キムタク主演の青春ドラマ”のような爽快感を与えている。わずか15日間王になり代わった男が、なんと宮廷に漂う暗い雰囲気を一気に変えてしまったのである。

実際には替え玉の存在など史実には記されていないのであって、歴史は再び元通りの時間を刻み始めるのだが、ラストにはそれなりに納得できる捻りがちゃんと用意されている。おしむらくは、面白くも何ともない官僚のお辞儀などではなく、正統派美人女優ハン・ヒョジュちゃん演じる悲しみの王妃の満面の笑顔でラストを飾るべきだったと思うのだが、どうだろう。