オルキリア元ちきーた

ザ・マスターのオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

ザ・マスター(2012年製作の映画)
3.8
催眠療法の手法を使って布教する新興宗教家と、生きる目的を見失ってる帰還兵の「共依存友情物語」。
根無し草のしょーもない帰還兵フレディが、偶々潜り込んだ船上パーティーの主催者「マスター」と出会い
最初はマスターに洗脳されていく様に見えたが、事あるごとにトラブルを起こし、またその度にマスターに救われる。
その過程で本当に戦争のトラウマから脱する事が出来たように見えた。

だからマスターを疑うような連中には容赦なく攻撃するが、そのハマり様がむしろマスターの立場を危うくしていく。
でも実はマスターの奥さんが黒幕で、細かい事は裏で指示をしたり(背後から忍び寄り手コキしながら命令を言い聞かせるエグさ!)執筆も実は奥さんの口述筆記だったりして、マスターもまたコントロールされている立場。
マスターからしたら、自由にフラフラ生きているフレディが、実は羨ましいのかも知れない、と思わせる所がチラホラ。
それが奥さんには不安で仕方ないのだろう。

フレディも好きでフラフラしてるわけではなく、従軍する前に交わした約束を果たせなかった後悔と
依存せざるを得なかった危険なカクテルと
戦争のトラウマなど
抱え込んでいるものが色々あり過ぎて
瘡蓋で塞がった傷をまた搔きむしり化膿させる、を繰り返す様な生き方しか出来なくなり、もがいている様にも見える。
フレディが生きる目的を失って失望して、まさに「心の支え」が必要な時に
再会したマスター(の奥さん)の「支え」は、自暴自棄なフレディの姿を見て、いい機会だとばかりに、あっさり彼を捨ててしまう。
マスターを支配する奥さんでさえ
マスターと共依存してるからだろう。

マスターは奥さんにガッチリと捕まえられていて、もう今の立場から外れる事は出来なくなってしまっていた。

戦争のトラウマに縛られていたフレディと
奥さんに束縛され続けるマスターの
二人の優劣が入れ替わる時。

二度と会わない、次に会う時は敵だ、と言いながらも、別れの歌は「2人でゆっくり進む船で中国へ行こう」と歌う。
フレディの流す涙は、別れが辛いのではなく、もう戻れない所まで辿り着いてしまったマスターを憐れむ涙だろうか?

ナンパした女とイチャつきながら
マスターの真似事で催眠療法ごっこをするフレディに、昔の狂気じみた信仰心は無い。

エンドロールで流れる曲の歌詞も
二人の関係性をよく表現している。

ホアキン・フェニックスの思い詰めた表情や
フィリップ・シーモア・ホフマンの細かいディテールまで神経が行き届いた演技も素晴らしい。