オルキリア元ちきーた

ラストオーダー 最後の注文のオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

3.2
父親としてのジャックと
1人の男としてのジャック

その人生には色々な側面があり
また、それに関わる人々にも、秘めた側面が存在する。

そんな「1人の男」を通して
3人の友達と1人の息子と
そして妻と娘の想いが交錯する物語。

受け継いできた精肉店を次世代に繋げようとする父親ジャックの想いと
自分のやりたい仕事で身を立てたいジャックの息子ヴィンスの想いが静かにぶつかり合う。

重い障害を持ち施設で暮らす娘ジューン
その娘を50年間ずっと見守り続ける妻エイミー
それを知りながら、娘の存在さえ受け入れずに50年間妻だけを愛し続ける夫ジャックと
そのジャックの戦友で、エイミーの苦労に寄り添い続けるヴィック

周りの人間を惹きつけ、知らず知らずのうちに拘束していたジャックが病死するところから
「解放」の物語が始まる。

ジャックという人間との絆と呼ぶには、周りの人々の犠牲が大きい繋がりが横たわる。

中古車のメルセデスに乗り、遺灰を遺言で示された地に散骨に赴くだけの物語だが
妻エイミーは同行を拒否。
老友3人と息子ヴィンスが運転して散骨地のマーゲイドに出発する。

道中の思い出話は弾むが、みんなそれぞれの「苦い思い出」は伏せたまま。
楽しいというより、どこか事務的で、肝心の遺灰を店に置き忘れそうになったりもする。

平凡ではないが、突出した英雄にもなれなかった、仲間達だけにとって「特別な存在」のジャックとの「しがらみ」を解き放つための道のり。
どこか、その時を待っていたかの様な彼等の言動。

世の中はドラマチックな「死」ばかりではない。

悲しみや寂しさではなく
虚しさと、安堵とが入り混じる
「1人の男の死」が緩やかに描写されている。