オルキリア元ちきーた

エンドロールのつづきのオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

エンドロールのつづき(2021年製作の映画)
3.8
「発て そして学べ」

アラビア海に面したインドの西部のグジャラート州が舞台の作品。

グジャラートは、独立指導者であったマハトマ・ガンディの活動拠点でもあった地域。
ムンバイの北に位置し、ヒンドゥ教徒が9割近くを占める。
ヒンドゥはベジタリアンが多く、肉を食べるにしても羊か鶏肉のみ。
インドのカースト制度では、バラモン(僧侶)が一番位が高く
クシャトリヤ(王族)>ヴァイシャ(平民)>シュードラ(奴隷)という四階層の身分制度が
現在の法律では廃止されているが、実生活では厳然と存在するという。

主人公のサマイ(バーヴィン・ラバリ)の父親は
バラモン出身という事だけが「拠り所」の、今はしがないチャイ売りの男。
息子のサマイの映画への憧れを受け入れられずにいる。

サマイの母親は毎日食事を作り、貧しい中でも息子の成長を暖かく見守っている。

サマイにとって田舎のチャイ売りの手伝い生活より映画のスクリーンの煌びやかな作品世界の方が大事で
映写技師と親しくなり、映写室から映画を鑑賞し、フィルムを投影する作業の手伝いをする事に喜びを感じている。

自分でも映画を作りたい。光を捉えて夢の世界を映し出す仕事がしたい
その想いが仲間達と手作りの映画館を作り上げていく。
しかしそれは、社会のルールに反する行為まで踏み込まないと実現しない。
光に憧れ映画という夢を求めていた筈なのに、目の前に広がるのは薄暗い未来なのか?

本作の監督パン・ナリン氏自身の自伝的物語の映画化なのだという。
キャストは全員グジャラート州出身で、ロケもグジャラートで敢行。
美しい景色や列車の走る風景、貧しい生活のディテールは、サタジット・レイ監督の作品を彷彿とさせる。

光を透過したガラスやフィルムを通して見える色彩や
母親の作る食事のカラフルさ
映画館のある風景、廃墟の佇まい、列車の乗客のアクセサリーなど
「色」と「光」が印象的な作品。

その他にも、2001年宇宙の旅やニューシネマパラダイス、大地のうたといった古今東西の映画作品へのオマージュが
あちこちに散りばめられている。

パン・ナリン監督はインタビューで「4つのF」がテーマになっていると語っている。
Film、Food、Friend、Future
なるほど、と思った。

映画のフィルムの未来は女性のバングルへ
映写機の未来は食器のスプーンへ
友人である映写技師のファザルから受け継いだ映画への情熱は
次の世代である主人公サマルへ
父親の苦悩も、教師の言葉も、母親の優しさも、友情も一身に受け止めて列車に飛び乗った主人公の未来が
この作品として結実したのだろう。

ほどよいファンタジーで彩られた、監督の映画へのラブコールに思えた。