前方後円墳

クロエの前方後円墳のレビュー・感想・評価

クロエ(2001年製作の映画)
5.0
花は散るらむ。
アヴァンギャルドなボリス・ヴィアンの『日々の泡』を粉々に破壊し、日本製の違う作品として再構築できているところがすばらしい。そして原作のもつ絶望感とその美しさはしっかりと息づいている。
完全なラブストーリーとしての再構築。これは『日々の泡』(個人的に『うたかたの日々』よりもこちらの邦題が好きだ)ではない。そこに原作のもつポップな香りや破天荒な展開は存在しない。高太郎(永瀬正敏)とクロエ(ともさかりえ)、そしてそこに絡む英助(塚本晋也)と日出美(松田美由紀)の愛を映像いっぱいに描き出している。

クロエが肺に睡蓮を根付く中盤までは幸せいっぱいなのだが、そこから彼ら四人の悲しい物語が始まっていく。
アーティストのキタノ(青山真治)に耽溺する英助は金をとにかくキタノ作品を集めることだけに使ってしまうのだが、そのダメ男っぷりを相変わらずの上手さで塚本晋也は演じている。そして日出美はキタノを殺害し、その同時刻に借金をしていた男に殺されている。日出美の愛ゆえの過ちが報われない一瞬だ。その一瞬には人生を表現しうる、すべての言葉が詰め込まれているようだ。
この作品では主要4人の演技がとてもすばらしい。ともさかりえが映画作品で表情で、ここまではかない演技ができることに正直驚いた。

クロエは一日一日と死に向かっている。だが、肺の中の睡蓮は他の花でその成長を抑えることができることを知った高太郎はとにかく花を買って、部屋を花だらけにしていく。そして花を買い続けるために、クロエに生きていて欲しいがために一日中休みなく働き続ける高太郎。そして一瞬でも一緒に居ることを願うクロエ。このお互いの愛ゆえのすれ違いがとても切ない。愛ゆえにクロエの願いを叶えてあげられない哀しみのように、二人の部屋に差し込む光がとても寂しい。
「睡蓮って咲く時に音がするのよ」というクロエの台詞。その美しくも切ない台詞。一部屋に差し込む光と埋め尽くされた花の美しさと寂しさ。そして二人の想いがシンクロしたような表情。思い出すだけで涙が流れそうになる。

高太郎は喪の仕事を繰り返す。そして、強く絡み合った愛と絶望が星へと昇華した後に一人残された高太郎が見上げる星はとてもやさしく瞬いているのだ。