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風立ちぬのRenのレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.0
【宮崎駿初心者日記⑤】

初見。観たことのある21世紀のジブリ映画の中では一番好きだった。実在の人物がベースになっている時点で異端な感じがするし事実異端ではあったけど、しっかり宮崎駿映画であった。

今までのジブリ映画に通ずる哲学の話を大好きな飛行機でやれて良かったですね先生、といった風を感じた。今作で引退しようとしていたことも分かるし、そのことを知らなくても「宮崎駿、終活入った?」と思っていた気がする(後からならなんとでも言えるのであまり信用できない感覚)。

空を飛ぶことへの憧れがどこまでも美しい映像から滲み出る。飛び立つ飛行機から発生する風になびく草や髪の毛の描写が、そこにある巨大な機械への心の高鳴りまでもを感じさせて、そういう描写一つひとつにアニメの魔法を感じた。

それだけでなく、空を畏怖の対象としても見ていると思った。戦争中では空は全てを飲み込む。冒頭で震災を目の当たりにしている身としては陸も恐怖対象なので、地平線のカットが映る度に潜在的に「ここにあるもの、全部美しいけど全部怖いじゃん」と感じる。そういうスリルが持続する。

カストルプと会話するシーンの虚実入り交じる演出も、現実と夢の間で揺れる過去のジブリ作品でのノウハウが生きている。姿が物理的に見えないだけで、常に憧れ(の人)は物語内に存在し続けているという「トトロ」的なアプローチ。現実では無理なところに立ったり歩いたりする明らかな「夢」感も、今作が実写でない一つの理由になっている。

堀越二郎の全ての行動原理は「美しさの追求」にある。『もののけ姫』や「ハウル」などに顕著に見られた「生きるとは美しくあること/美しさを追い求めること」という思想を極限まで煮詰めてできたのが『風立ちぬ』なのだろう。
ことある毎に「美しい」と呟く二郎。あの人に衰弱する姿を見せたくないと溢す菜穂子。
人の営みは美しさと共にある。二郎は誇張し過ぎた(してない)宮崎駿だ。病床の妻を気にかけつつも零戦の設計に没頭し続ける彼にはフツーに感情移入できないのでそこが評価の分かれ目になりそうだけど、今作はそれで良い。元より映画は共感だけではないし、ある程度上から目線で観ていいものだ。自分も二郎は全く好きではないけど、教科書的に興味を持った。

日本は負ける。二郎が飛ばして菜穂子と繋いだ紙飛行機が潰されたように、零戦は全て空に消えて一機も戻らない。物語としてはとんでもない幕引きだけど、今作に限っては「美しい憧れを完成させた」ことそれ自体が大切であって、戦争自体への問題提起は少ないように思う。

声優・庵野秀明の棒読み問題。自分はそもそもジブリの声優にそんなに上手い印象が無いこともあり、途中からは気にならなくなった。
「美しさを追求する」という超人間的な思想「だけ」になったが故に非人間的になってしまった人なので、無感情ロボット発声でも許される面はあっただろうと予想。
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