めしいらず

風立ちぬのめしいらずのレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.5
大人になってもつい女の子ばかりを目で追ってしまうような子供っぽさ。何につけても無知蒙昧。正義感はあるけれどどこかひ弱で頼りない。そんな主人公である。でも好きなものに熱中すると脇目もふらぬ。いつか美しい飛行機を作りたい。鯖の骨を見て飛行機の骨組みを思うような実直さ。そんな彼が理想を追い求め、幾多の困難を乗り越え、ようやく成し遂げた夢のその先で見た光景。それはそれまでの人生を否定するような、あまりに遣る瀬ない現実だった。高度な飛行機技術だから戦争に利用されてしまうのが実際のところ。戦争と技術の進歩が背中合わせの皮肉。その蟠りとそれでも限りなく美しく作りたい設計士としての性との矛盾。風によって吹き寄せられた結核のヒロインとの恋情。二人に残された時間は余りない。彼女は覚悟の上で彼のそばに身を寄せ、その時を知り、美しい記憶だけを残して一人去って行った。苦労して開発した戦闘機は軽量化による脆さで多くの犠牲者を数えた。そして戦争は終わる。夢こそ叶えはしたけれど、それでも尚、主人公は公私どちらも大きな虚しさを感じている。飛行機は美しくも呪われた夢。いま彼の胸に去来する思いは如何許りか。でもどんな悲痛の中にあっても、日々はとめどなく繰り返される。人生には何度か大きな向かい風が立つけれど、それでも”生きねばならん”。生きていく悲哀を抱えながらどうにか前も向き不確かな一歩を刻もうとする人々の清しい姿。哀しくはあるけれど一陣の風のように爽やかな印象を残す。宮崎駿の代表作と呼ばれるに相応しい名作。
再…鑑賞。
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