Dachiko

偽りなき者のDachikoのレビュー・感想・評価

偽りなき者(2012年製作の映画)
4.2
マッツ・ミケルセン目的で観賞。

この物語は純粋な少女の、純粋な嘘がルーカスという優しい男の人生を狂わせてしまう映画だ。

デンマークには“酔っ払いと子供は嘘をつかない”という格言があるらしい。確かに的を得ているが、時と場合によるだろうと個人的に思う。酔っ払いはともかく、子供は無邪気な嘘を平気でつく。

ルーカスは少女の嘘により、村中の人々から異常者扱いされ、殴られ、愛犬を殺され、さらにはスーパーで買い物をすることすらも許されなくなった。村八分を引き起こすような集団ヒステリーは本当に怖い。それ自体が あいつは敵だ という意思を持ってるからその中の人間は何も考えずに対象を敵と認識し、誤った裁き方をしようとする。

一度そうなってしまったら少女がいくら嘘を取り消そうとしても、大人たちは耳を貸さない。辛いことを忘れようとしているのだ、と都合のいい解釈をする。だから少女の告白にやっと1人の大人が耳を傾けた時、そしてルーカスとの関係をやり直そうと晩酌を交わした時、涙が出た。人をどんな時も信頼することほど勇気が必要なことはないだろう。

この映画の中に悪人はいない。確かに園長にはムカついた。犬を殺した奴は頭がおかしいと思う。事が終わったら何事もなかったようにルーカスと接する村人は殴りたくなった。だがそれは鑑賞者である私たちがルーカスは無実だと知ってるからであって、もしあの中にいたら集団の意思に飲み込まれて、疑惑を持ってしまえのだろう。

そして一度疑惑が浮上してしまうと、それは簡単には拭えない。偏見は残るのだ。いつまでもその『Jagten(狩猟)』の標的とならなければいけない主人公の呆然とした表情が言葉にできない無情さを伝えていた。