秋日和

青髭の秋日和のレビュー・感想・評価

青髭(1944年製作の映画)
3.5
オフィーリアのように、横たわった美しい女性が川を流れていく。死体と人形。その、あまりにもありきたりな二つの要素を何の躊躇いもなく描いていくのだろうと、映画の序盤では根拠もなく思わされる。何故なら男と女の出逢いが正面衝突によって果たされる本作は、きっと、寄り道をすることなく粛々と、ウルマーらしい簡潔な演出によって終わりまで運ばれるのだろうなと……想像してしまいたくなるからだ。
映画の中盤で、死体と人形に「絵画」が追加される。『スカーレット・ストリート』や『ローラ殺人事件』の名前を出すまでもなく古典犯罪映画に登場しがちなアイテムではあるけれど、70分という時間内で描くには少しばかり欲張りだ。人形も絵画も現実に目を向けず、独り善がりな理想を形作る物として劇中で提示されてはいるけども、両方をバランス良く描けるのかな?とどうしても不安になってしまう。
ウルマーが見事なのは、人形と絵画を「理想を複製するもの」として一括りに纏めたところだと思う。主人公=青髭にとって重要なのは女性の表面上の美しさ。彼が人物をデッサンするとき鏡越しにモデルを捉えたショットが決定的で、つまり、(前述の通り)現実から目を反らし虚像を見つめている……ということになるのではないだろうか。見たいものしか見たくない、それが芸術家だ、ということなのかもしれないけれど。
破壊と複製を繰り返す哀しい芸術家の人生。そこに一つの「再生」を加えたウルマーの手腕は素晴らしい。70分内で描くにはやっぱり欲張りだったなぁとは思ったけれど、「あたしってミロのヴィーナスとスリーサイズが同じなの」という訳の分からないギャグを放り込んでくる辺りに謎の余裕も感じたり。影を活かした画面もたっぷり味わうことができます。
秋日和

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