Tully

パコと魔法の絵本のTullyのネタバレレビュー・内容・結末

パコと魔法の絵本(2008年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

自分の弱さを見ないように、強い人間であれと願って生きてきた半生。孤独であることを認めたくなくて、自分から他人との関わりを拒絶してきた生き方。そんな大貫の唯一の拠り所だった会社が自分の手から離れようとしているとき、完全に孤独であることを知らなくてはならなくなったときに目の前に咲いた一輪の 「無垢」 な花。それがパコ。年齢も境遇も違うけど、孤独である2人。大貫はパコに何を見出したのだろう。パコには過去も未来もない。あるのは 「今日」 という日だけ。だからこそ大貫にとっては過去の自分を唯一責めずに許してくれる存在であり、いつも笑顔で向き合ってくれる存在だった。そうして彼の 「絶対的存在」 となったパコによって、自分の非力さとまだ残された可能性を知る。いつしか心と心で寄り添いあいたいと思い、彼女に何か残してやりたいと願い、他人に気持ちを注ぐ喜びを知る。それが 「手のぬくもり」 と 「絵本」 だった。この痛々しくも暖かな愛情に、私は涙したのかもしれない。そして本当に孤独な人間なんてこの世に居ないということにも。愛がそこらじゅうに溢れていることにも。必ずどこかで誰かと繋がっているという安心感にも。孤独な境遇なのは2人だけじゃない。元子役の男に、最悪の環境におかれて生きてきた看護師。いや、彼らだけじゃない。オカマさんだって孤独だ。そしてみんな愛を持ちながらも相手に上手く注ぐことが出来ないでいる。でもそれもパコによって、自分なりに頑張ろうとするそんな不器用な人たちの物語です。そんな感じで切なさに酔いしれながら見てたんですが、突如搭乗するのが 「スイッチ」 に 「猿」 に 「彦磨呂」 に 「阿部サダヲ」 だもんね。せっかく泣いていたのに、今度は笑い涙ズルズル。独特の世界感の傍らで満開に咲く、愛情溢れる人物たち。見た後は自分を取り囲む人たちが愛しくて堪らなくなる、愛いっぱいの映画でした。
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