Nasagi

鉄西区のNasagiのネタバレレビュー・内容・結末

鉄西区(2003年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

「今のうちに撮っておけ。すぐなくなるぞ。」
中国東北部の巨大工業地帯「鉄西区」の衰退を、視点を変えつつ3部構成・計9時間で描いたドキュメンタリー。
記録をのこすことへの執念を感じる作品だった。まともにレビュー書くとめちゃくちゃ長くなりそうなので、それぞれのパートごとに簡単にコメントしようと思う。

・第1部は、3つのパートの内、もっとも俯瞰的なパートだと思う。

目線はあくまで工場ではたらく労働者たちに寄り添っているが、かれらの語りと仕事ぶりを通して、危険で劣悪な労働環境、工場全体の経営体質、国が抱えている問題が浮き彫りにされていく。
労働者たちはけっしてただの従順な「人民」ではなく、お上への愚痴には事欠かないし、じぶんたちの置かれている環境も、一歩引いた自嘲的な目線で見ている。
話聞くかぎり、「非合理的な事業計画」+「市場による淘汰」の合わせ技っていう、なんか社会主義と市場経済の悪い所が両方出ちゃったみたいな形になるんかな。。。

休憩室でくつろぐ労働者たちの自然な様子、巨大な機械が動く迫力、廃墟になっていく工場の建物など、被写体としてもとりわけ「それっぽい」ものが映されていて、監督自身があちこち歩き回りながらそれらを記録していく。


・第2部は、もっとも感傷的なパートだと思った。

労働者とその家族が暮らしている住宅街が舞台で、話がすすむに連れてどんどん家々が取り壊され、人が少なくなっていくので、もっとも「衰退」が視覚的にわかりやすい。
ちょっとヤンキーっぽい少年少女たちの青春をテーマに、かれらの友情、将来への息詰まり(ここでも教育の壁がある)、立ち退きを迫られた住民たちの抵抗などが示される。

監督はここでも「足」を使って歩き回りながら、変わっていく街並みを撮っていく。マイクが拾う、監督の乱れた息遣いがひじょうに印象的で、なんとかしてこの場所・風景をのこしたいという監督の焦り、そして自分には何もできないという無力感が伝わってくるようだった。
総じて、1人の青年ワン・ビンのセンチメンタルな青臭さがよく表れているパートだったように思った。


・第3部は、もっとも相互的で、かつ象徴的なパートだと思う。

工場地帯の中を走る輸送用の鉄道を題材にしつつ、その沿線に居候をしながらくず拾いをして生計を立てている親子に焦点を当てている。
親子の個人的な絆をとるために距離感がぐっと近くなっていて、カメラによる干渉の度合いも大きい。そのため映像も「記録」というよりは、親子との「共同作業」という感が強かった。
ただ、ワン・ビンはほんとうにプライベートな瞬間を撮るときは、遠慮してちょっと被写体の人物から離れるようにしているとも感じた。
(観ている側からしても、「これはあんまり近くで観るのはなんか申し訳ないな」という気持ちになるので、離れてくれてむしろありがたいのだけど)

また、機関車の先でカメラを構えて、線路をすすんでいく様子を撮ったショットがいくつも挿入されるが、なんとなくそれが、脇目もふらずにひたすら前進し続ける中国という国の姿と重なって見えた。
視界の端には、季節がすすむにつれ衰退していく工業地帯(とそこで暮らす人々)が映り込んでいるが、カメラはそれを後ろに置き去りにして進んでいく。色んな犠牲を出しながらも発展していく中国。

ラストカットでも機関車は、夜の暗闇のなかを進んでいる。先は見えないけど、進み方はすごく力強い。どこに行き着くんだろうか。


簡単にコメントとか言いながらけっこう長くなってしまった。。。
Nasagi

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