Nasagi

ミツバチのささやきのNasagiのネタバレレビュー・内容・結末

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

図書館で借りられる名作①
サブスクにはないが図書館に行けばある。そんな名作を観ていく企画。

たぶん5年以上ぶりの再鑑賞。
前回みたときはあまり良さがわからなかった。でも久しぶりに鑑賞して、一見静かなようでいて、じつは魅せどころがたくさんある映画だとわかった。

個人的には、主人公アナが小屋の外で、大きな足跡を見つける所がいちばん好きかもしれない。
あの何かが始まった感じがとてもいい。
「ほんとうに精霊さんっているんだ」
世界は、まだ自分の知らないもので溢れているんだ、と悟ったかのような。
アンビエントな音楽と風の音もマッチしていて、そこだけ何度もリピート再生した。

また今回は観たタイミングもあってか、アナのまなざしが心に刺さりまくった。

「なぜ殺したの?」
純粋な瞳でそう問いかけられるともうしんどいよね。
あいかわらず、世界は殺されるいわれなど何もない死であふれてますけど…

まさにアクチュアルな作品だと思う一方で、
このあまりに真っ直ぐなアナの問いを、特定の為政者による、特定の侵略行為を批判する文脈でもちだすのもなんかそぐわないな、という気がして、
今起きていることと結びつけて書くことがうまくできなかったのも正直なところ。
(ていうかプーチンのやってることって、もはやそういうレベルじゃねぇ酷さだし…)


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自分は初歩的なところしかわからないが、さまざまなモチーフについての解釈が楽しい作品でもあるので、軽く触れておきたい。
といいつつ、タイトルにも含まれているミツバチ(の巣)については、オーソドックスな解釈以外には大したことが思い浮かばなかったのでスルー笑

・白いくちびると赤いくちびる
ポスターにもなっている、陶器を手にしたアナのバストショットだが、白いスープ?によってくちびるが白くなっている。
これが、自らの血で口紅をかいたイサベルとおそらく対比されていると今回気づいた。
図式的に解釈すれば、
赤―大人―戦争―死

白―子ども―平和―生
と捉えられるかもしれない。


・犬と猫
犬は人間(大人、体制)の忠実なしもべであるが、猫は怪物側(反体制)として描かれているように思われる。
だからイサベルは、自分になつかない飼い猫の首を締めたのではないだろうか。
冒頭のクレジットに出てくる猫の絵も、なんかお化けのような風貌になっている。


・列車のモチーフも非常に重要。
閉鎖的な村において、外の世界とのつながりを連想させる装置といえる。
映像だけでなく、背景音として挿入されている箇所もふくめ。
ラストシーンで汽車の音が鳴っているし、ほかにも母テレサが、その夫フェルナンドが寝室に入ってきたときに寝たふりをする場面でも、列車の音が鳴りだすと同時にテレサは目を開けはじめる。
この瞬間、テレサは背後の夫にチラリと目をやりながらも、昔の恋人のことを思い浮かべているように思われる。

おそらくテレサは「文通」などしておらず、とうの昔に音信が途絶えた元恋人に、一方的に手紙を送り続けていただけではないか。
ラスト近くで焼き捨てた手紙も、届いたのはだいぶ昔なのだろうと想像する。

その後、寝落ちした夫の肩を手で優しくなでたテレサが、ろうそくの火を静かに消す場面が印象的である。ここにも炎による意味のつながりが見られる。
Nasagi

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