こたつむり

私の男のこたつむりのレビュー・感想・評価

私の男(2013年製作の映画)
3.9
♪ 夕やけこやけで 日が暮れて
  山のお寺の 鐘がなる

好き嫌いで言えば嫌いな作品ですね。
何しろ、分厚いんです。噛み応えがスゴいんです。しかも、味わいを感じるのは奥の奥の奥の方なので、最初はゴムを噛んでいるかのよう。美味しくありません。

でも、それらは全て布石。
全てが機能的に結びついているのが小憎らしいんです。

味がしないから。
寒々しい景色が続くから。
必要以上に緊張感が漂うから。
ゆえに最後のほうでボソッと呟く一言が胸の奥に刺さるんですね。もう少しで涙腺が崩壊するところでしたよ。危ない、危ない。

ちなみに仕上げたのは熊切和嘉監督。
細部まで気遣う画作りは圧巻です。寡聞にして監督さんの他作品は『#マンホール』しか観ていませんが、アレも存在感は分厚かったですからね。この重厚感が持ち味なんでしょうね。

また、本作に限って言えば配役も見事な限り。
主演の浅野忠信さんと二階堂ふみさんは「この役に合うのは二人しかいない」と思うほどの説得力。特に二階堂ふみさんは当時20歳。いやいや、それでこの色気はヤヴァいでしょう。

女性は化ける、とか言いますけど。
彼女ほど「脱いだらスゴイ」というか、何枚脱いでも「その先に裸がある」と思わせるというか、奥の奥の奥の方に“蜜”の匂いがする女優さんはいないと思います。

そして、それを支える浅野忠信さんも流石。
ぶっちゃけた話、雰囲気が独特過ぎて、活かし方が難しい役者さんだと思うんですが、本作の場合はその“クセモノ”っぷりがムカつくほどに活きているんです。このあたりも監督さんの手腕が大きいですね。

まあ、そんなわけで。
夕焼けの場面なんて無いのに、夕焼けの匂いがする作品。とても洋画っぽい仕上がりなので、邦画の“分かりやすさ”を期待しない方が良いです。勿論、後味も良いとは言えないので注意が必要。

でも、その辺りを許容できるのであれば。
心に傷を付ける唯一無二の作品になるはず。僕は、流氷の場面と、ゴミ屋敷の場面、そして血がしたたり落ちる場面に衝撃を受けました。ガツン、と。
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