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ゼロ・グラビティのぴろのネタバレレビュー・内容・結末

ゼロ・グラビティ(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

 ロシアの人工衛星が爆破され、その破片が宇宙船エクスプローラー号を襲うことから物語は始まる。本作は、女性宇宙飛行士のライアンが、次々と迫り来る危機にたった独りで立ち向かい、地球へと生きて帰還する過程を描いた壮大なSFサバイバルだ。

【神も仏もないものか】
 とにかく一貫して絶望的な状況が続く。仲間の死、残り少ない酸素、船内火災、宇宙ゴミの嵐…。宇宙ではピンチに駆け付けてくれるヒーローなど絶対にいはしない。生きるも死ぬも全て自分次第。緊張感、閉塞感、孤独。その極限状態に観客は没入し、ライアンと共に残り少ない酸素をちびちびと吸う。元宇宙飛行士のバズ・オルドリンが、「宇宙飛行士の目で見ても非常に素晴らしい」(https://www.cinematoday.jp/news/N0057168)とお墨付きを与えたほどリアルな無重力状態の描写と圧巻の映像表現が、その映画体験を支えている。

【過去との対峙 重力のメタファー】
 だが、本作がアカデミー賞を総なめにした所以は、単にその手に汗握るサバイバル要素や圧巻の映像技術だけによらないだろう。名作というものは常に表と裏の二つのテーマがあるものだ。本作における表テーマは、宇宙から地球に生還すること。では裏テーマは?
 宇宙を漂うなかで、ライアンは事故で幼い娘を亡くした過去を明かしていく。優秀な医療技師で、一見完全無欠な彼女だったが、実は失意を胸の奥底に抱えたまま、ふわふわと根無し草のような心持ちで生きてきたのだった。無重力、無音、真っ暗闇の広大な宇宙にたった独り。しかしその中で、彼女は自身の内面と向き合っていく。そう、本作はひとりの孤独な女性が過去のトラウマを克服し、再び自らの人生を歩む決意をする過程をも描いていたのだ。重力とはここでは、人との絆や心の平穏、あるいは地に足をつけて生きていくことのメタファーであることが分かる。

 この緻密で重層的なストーリーに、圧巻の映像技術・映像美が組み合わさったことで、本作はSF映画をさらなる地平へと推し進めた。宇宙好きなら必見の一作である。
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