ぴろ

ジョーカーのぴろのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【史上最凶の悪のカリスマ=暴走する社会的弱者】

「心の病を持つ者にとって最悪なのは、世間の目だ。こう訴えてくる、心の病などない。普通の人のようにしてろと」

貧しい大道芸人アーサーの日記の一節に、学生の頃受けた現代社会学の講義を思い出した。全国のドヤ街で貧困層への聞き取りを重ねた教授が教えていて、うろ覚えだが確か、
・都市社会は、貧者を自由への意思や誇りを持った「人間」ではなく、単なる「安価な労働力」として見る
・現代社会では貧困はその原因が個人に内面化され、自己責任論のもと、貧者は社会から「排除」される
と言った内容だったはず。

社会は彼らを消費する一方で、彼らの望むとおりに彼らを理解せず、「普通」を押し付け、それができなければ存在しないものとして扱う(我々が普段、街の片隅でうずくまる浮浪者や、ひとりブツブツしゃべっている障害者を見て見ぬ振りするように)。
そうした社会的弱者が、抑圧と孤独の末に暴走したのが、ジョーカーだった。
京アニや北新地の放火や、京王線や小田急での無差別殺傷など、現実世界の種々の事件と重なって見えた。

また、劇中に度々差し込まれる「階段」のシーンが印象的。序盤、体を引きずるように暗く寒々しい階段を登っていたアーサーが、終盤にはジョーカーとなって光差す階段を軽快にダンスしながら降りていくという対比が光る。階段の上と下で善悪を、シーンの明暗で解放と抑圧を表現し、彼ですアーサーにとって悪へ堕ちてゆくことこそが抑圧からの解放であることを示唆しているのだろう。

格差社会の歪みを暴くテーマ性と、巧みな映像表現、弱者男性の悪のカリスマへの変貌を無理なく痛快に描く脚本が見事。そしてそれらがホアキン・フェニックスの圧巻の演技と融合し、歴史に残る社会派スリラーとなった。


【メモ】
・階段の象徴的表現について追加。『戦艦ポチョムキン』(1925)では、階段を落ちていく乳母車で無辜の市民たちの死の運命を予感させ、『パラサイト』(2019)では階段の上と下で貧富の格差を表現していた。いつか全部まとめて考察してみたい。
・興行収入はR指定映画として初めての10億ドル超え
・第76回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され金獅子賞を受賞
・第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞を含む最多11部門にノミネートされ、フェニックスが主演男優賞
・フェニックスは4ヶ月で約24キロ減量し、役作りした
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