ぴろ

紙の月のぴろのネタバレレビュー・内容・結末

紙の月(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【社会の偽善を破り捨てる、女横領犯のクライムサスペンス】

不倫相手の大学生に貢ぐため、多額の金を横領した銀行員、梅沢梨花の物語。しかしこの作品は単なる馬鹿な女の転落劇と一言に片づけられない。一見何不自由ない生活を送る彼女はなぜ、犯罪に手を染めてしまったのか。

梨花という人物の根底にある価値観を理解する上で、所々に挟まれる彼女の中学時代のシーンが鍵となる。キリスト教系の女学園に通い、貧しい国の子供たちに寄付をするボランティアを続けていた梨花はある日、寄付のために父の財布から金を盗む。やがてそれがバレて咎められるのだが、梨花は悪びれるどころか、寄付をやめた同級生らを非難し、与えることが自分の幸せなのだ、と清々しく宣言する。

持てる者の金を持たざる者に与えることが、そんなに悪いことなのか。それを許さない社会の規範は、彼女にとって偽善と映ったのだろう。それでも梨花は、大人になるにつれてそうした様々な「偽物の規範」を身につけ、自分でも気づかないうちに抑圧されて生きてきた。そんな時出会ったのが、苦学生の光太だった…

大金をただ遊ばせるだけの生い先短い老人たちから横領を働いたことも、頭では犯罪と分かっていても、本心ではそれほど罪悪感を感じていない。光太のためになり、それが自分の幸せでもある。幸せを追い求めるために少し盗んだくらい、大したことないでしょ?と言わんばかりに、横領を重ねるごとに宮沢りえ独特の透明な美しさが増していく様は、いっそ爽快感さえある。そして、あのクライマックスへと繋がってゆく。

主人公梨花の緻密な内面的人物造形が光り、その生き様によって観る者に「正しさ」とは何かを考えさせる。
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