こたつむり

彼女はパートタイムトラベラーのこたつむりのレビュー・感想・評価

4.0
♪ そう 君が泣いていたあの頃に
  もう一度会いたくて

出た、タイトル詐欺。
実際はパートタイマーではなくインターン。
実情は似たようなものでも定義は違うわけで。だから“一発ネタ”のような邦題は萎えるばかり…ってアルバトロスが配給ですか。それじゃあ仕方ないですね。

ただ、タイトルは微妙だとしても。
作品としては紛うことなき傑作。
荒野にポツンと咲く一輪の花のように、優しくて儚い物語でした。それは音楽からして顕著。旋律が感情を淡く着色していく…そんな心地良い瞬間が続くのです。

ちなみに原題は『SAFETY NOT GUARANTEED』。「安全の保障は出来ない」という意味ですね。これは物語で提示されるタイムトラベルの条件。そして監督さんが伝えたいメッセージ。

何しろ、主人公は殻に閉じこもった女性。
現実と共存することは出来ても、心の内を出すことには抵抗があるのです。確かに、適切な距離感を学ぶ前に大人になると“装う”ことばかりが上手になりますからね。いやぁ。刺さりますなあ。

そして、気付けば後悔の沼にズブズブと。
それはイタくてツラくて心地良くて。
「生きている」という実感だけが身体を支配し、ひたすらに天を仰ぐようになるのです。

だから、最後の一瞬まで気が抜けません。
彼女が歩む未来(あるいは過去)は何処に至るのか。思わず拳を握りしめるのも当然。ううう…僕もガンバル。ガンバルよ。

まあ、そんなわけで。
名の知れた俳優さんは出演していないし。
豪華予算で車やビルが爆発するわけでもないし。とても地味な作品ですが…それゆえに些細な変化が沁みてくる良作。“違いが分かる大人”にオススメです。

ちなみに仕上げたのはコリン・トレボロウ監督。この後で、あの大作『ジュラシック・ワールド』の監督・脚本に大抜擢されるわけですが…やはりハリウッドには“違いが分かる大人”がいるのですね。さすがです。

僕の周りにも“違いが分かる大人”がいないかなあ。
こたつむり

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