こたつむり

なま夏のこたつむりのレビュー・感想・評価

なま夏(2005年製作の映画)
2.0
後ろを向いたら、アダルトビデオ。

吉田恵輔監督のデビュー作。
ゆうばり国際映画祭で部門グランプリに輝いた作品…ということで、割と期待して鑑賞したのですが…。んー。正直なところ、最後の数分間だけが輝いている作品でした。

何しろ、本作の主人公からして。
部屋中に盗撮した写真を貼り、女子高生の制服を飾り、ベッドの中でハアハアしている…そんな偏執的な愛に満ちた男性。僕も最初は「そういうのはねえ。人それぞれだよねえ。恋をすると周りが見えなくなるのは当然の話だから、自室の中で終わっていれば…」なんて擁護派を気取っていましたが…うん。ゴメンナサイ。無理でした。彼に共感なんて出来ません。

でも、だからと言って。
劇中で「うわ。キモーい」なんて耳にするのは、気持ちが良いものではありません。なので、不快感と同情が入り交ざった複雑な気分が続きました。ぶっちゃけた話、1時間にも満たない作品なのに「早く終わらないかなあ」なんて思いましたよ。

それと、とても残念だったのが。
主人公を演じる三島豊さんが、これ以上ない適役で圧倒的な存在感を誇るため、その他の演出が負けてしまっていること。だから、吉田恵輔監督の持ち味である“リアリティ”を感じなかったのです。

例えば。
電車の中で傷害事件が起きたのに警察が出動していないとか。病院の大部屋が男女混合であるとか。数週間も入院しているのに、隣に眠る患者さんの顔を知らないとか。確かに“リアリティ”は映画の必須条件ではありませんが、些細な違和感が積み重なると、さすがに萎えるのです。やはり“虚構”が華やぐのは“現実”の中にあってこそ、ですね。

まあ、そんなわけで。
荒々しい木工細工のような作品でした。
ヒロインを演じたのが蒼井そらさん…ということで、彼女のファンならば楽しめるのでしょうが…まあ、それでも、吉田監督の“イタい人を描く筆致”はデビュー作から鋭かった…と判ったのは僥倖。うん。これが原点なのですね。次作『机のなかみ』に繋がるものを見た気がします。

また、他の作品を思い返すならば。
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で描かれたものは、監督さんの実体験だったのかも…なんて想像するのも面白いですね。やはり、人の心を揺さぶるのは、腹の底から吐き出された叫び。ヒリつくような痛みが物語を輝かせてくれるのです。
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