消費者

美しい夜、残酷な朝の消費者のレビュー・感想・評価

美しい夜、残酷な朝(2004年製作の映画)
3.8
1話目「cut」 監督:パク・チャヌク
・あらすじ
著名な映画監督、リュ・ジホ
ある日、ジホがその日の撮影を終えて帰宅すると突如停電が起こる
暗闇の中で彼は何者かの気配を感じ声を掛けると次の瞬間、スプレーをかけられ気を失ってしまう
そして目覚めると家と同じ造りの撮影スタジオで拘束されており、目の前にはピアノ線で縛られてピアノの鍵盤に指を接着された妻、ミランの姿が…
現れた犯人はジホの事を知っているようだがなかなか思い出せない
そんな彼に思い出させようと映画でした芝居をジホに次々に見せる犯人の男
更になかなか思い出してもらえない事に痺れを切らしミランの指を切断してしまう
ピアニストである彼女にとっては致命傷である
そうしてやっとジホは彼が何者かを思い出す
男はこれまでジホが監督した作品全てに出演してきたエキストラだった
男の動機は裕福な家庭で育ち人格も良く、美人の妻までいるジホへの嫉妬心だった
貧乏な家庭で生まれ育ち父に暴力を振るわれ続け、大人となった今は自分自身も同じ様な父親となってしまった事からあまりに隙のないジホに怒りを覚えていたのだ
妻の解放を求めるジホに男は理不尽な交換条件を叩きつける
その場にいるどこかから拉致されてきた子供を殺せ、そうしなければ5分おきに更にミランの指を切断する、という物である
絶望的な状況に追い込まれたジホは徐々に隠してきた自分の本性を露わにしていき事態は混沌を極めていく…

・感想
裏の顔を持つ成功者に何らかの被害を受けた人間が復讐する、という設定の物語はごまんとある
しかしこの話はむしろ裕福な成功者でありながら人格者でもある事に対して育ちが生み出す格差の救いの無さを動機としているという点で斬新に感じた
その設定が面白いのでそのまま突き進むのかと思いきやジホが妻への本音を吐露し始め、一度は救出を放棄してしまう
ここからが面白い所でその言葉が実際に本音なのか妻を救う為の狂言なのかがはっきりしないという…
恐らくミランが助かる為に少年(犯人の殺し損ねた息子?)をさっさと殺す様に求めていた事から彼女が自己中心的で身勝手な人間なのは事実なんだろうけども

男のやる事がとことん胸糞なのも良かった
ピアニストであるミランの指の切断だけでなく、犯行の前に自らの妻を殺害し息子も未遂で終わったものの殺しかけていた
その為、自分の代わりにジホに手を下させようとするという…
ミランの切断された指も縫合出来ない様にミキサーで粉砕していたり…
そんな蛮行を働いてきた男だけど死に様もなかなかエグい
ミランの指切断で出来た血溜まりで足を滑らせてピアノ線に絡まった挙句、最初にジホが撮影していた映画さながらミランに首を食いちぎられるという…

そこまではシンプルに楽しんでいたけど終盤の展開の解釈が難しかった
ジホが少年を妻として助けようとして、逆にミランを少年として絞殺した訳だけどこれは直前に少年が口にしていた復讐の決意による物なんだろうか?
少年が錯乱を招く力を持っていたとか?

その解釈が困難なラストを除けば良い感じに気持ち悪くて韓国らしいドロドロさが結構楽しめて良い作品だったと思う

2話目「box」 監督:三池崇史
小説家の京子は日々、同じ悪夢を見続けていた
男が箱を地中に埋め、自らは別の場所に拘束されているという内容である
その夢には彼女の幼少期が背景として関わっていた
そんな京子の元に訪れる男
彼は京子を担当する編集者で原稿を取りに来たのだった
男と会った後から過去の悲劇に呑まれるかの様により鮮明になっていく悪夢
その裏に隠されていたのは彼女が過去に犯した罪の様だったが…

・感想
1話目以上に話がぶっ飛んでいた
京子は姉、しょうこと共に1人の男が率いるサーカスで活動していた過去がある
男はしょうこばかりを評価しており、それに対する嫉妬心からショーで使う箱へと京子は彼女を閉じ込めてしまう
それを目撃した男は京子を箱の傍から突き飛ばして救おうとするも京子の足が油の入った箱へとぶつかりそれが引火
テントは燃え盛り、2人を残して京子は1人で逃げて生き延びてしまった…
編集者の男は死んだはずのサーカスの男と同一人物であり、姉妹を揃って1つの存在として愛してきた為に片割れである京子だけが生きて大人になった事に憤慨し殺害し埋める…
というのが大筋の京子の夢として描かれるんだけど実際起きた事は違った

京子はしょうことシャム双生児の様に繋げられ1つの存在として生きてきた、というのが真相
つまりは見世物小屋にいた女性の話という事なのかな?と思うけど実際はどうなのか判断が難しい
なんせ三池監督の作品だし…w

恐らくこの解釈で合ってるとは思うんだけどその上でどう評価して良いのかが難しい
あまりにも荒唐無稽な話だから…
とはいえ映像の奇妙さは見応えがあった

3話目「dumplings」 監督:フルーツ・チャン
・あらすじ
香港の寂れた地域に建つ1つのアパート
そこには1人の女性がひっそりと営む餃子屋があった
ある日、その店に訪ねてくる1人の女性
彼女の名はリー、元女優である
リーが餃子を求めて来たのには訳があった
その餃子には若返りの力があるのだ
店主のメイも実際は高齢女性の様だが容姿だけ見れば30代ほどにしか見えない
メイもまた自ら餃子を食べている為だ
しかしその餃子の具には恐ろしい秘密があった
リーも店に通い詰める中で厨房を覗き込んだ時にそれを知るが若さへの欲が勝ちその後も餃子を食べ続けていた
より若返る為にもっと強い物を、と求めるリー
メイはそれに応え強い効果を持つ餃子を提供
だがその餃子は今まで以上に闇が深い材料で作られた物で…

・感想
ストーリーから現実に起きた事件を元にした悪趣味映画の金字塔、「八仙飯店之人肉饅頭」みたいな話だなぁと思ったけど本作はそれ以上に過激だった
餃子の材料は胎児の肉であり、望まない妊娠をしてしまった女性から取り出されていた
更にリーがもっと強い効果を求めた際に材料とされたのは父に犯された学生の少女が産み落とした近親相姦の子供…
その事実を知った彼女の母は夫を殺害してしまう…
その後、リーは妊娠するがその胎児を自ら陰部に針を刺して殺し具材にさせてしまう…
というどこまでも遠慮なくタブーに激しく突っ込んだ世界観はさすが中華圏という感じ
日本におけるAVやエロ漫画等のポルノ作品や古い残酷路線の映画などに見られる様に抑圧が強い国だからこそそういう作品が出て来るんだろうけどそれにしたって実写でここまでしてくるのはなかなかだと思う(勿論良い意味で)

ただグロくてタブー性の強い作品というだけなら世界中にあると思うけど人間の抱える欲望を軸に描いている事からその狂気性がより惨く生々しく感じられて凄まじかった

・全体の感想
それぞれ違う国で製作された3作品を収めたオムニバス形式のスリラー作品集で、どれも結構なエグい話なんだけど個人的な好きな順番としては…
dumplings>cut>box
という感じかな
cutとboxも面白くはあったけど解釈を鑑賞者に委ねている部分が強かったのに対してdumplingsはそういう部分が無い状態で衝撃を味わえたのが好みだった
cutも視点が面白い話ではあったけどラストの解釈に正解が見えなかったので…
自由な解釈をさせる作品がダメ、という意味ではなく出来事が抽象的でない以上は最後まで明白な設定を示唆して欲しかったなぁ…と
boxは単純に謎が多過ぎた…
それでも面白くはあるんだけども
何はともあれ総合的に尖った独自の世界観が味わえて楽しい作品だった
消費者

消費者