レインウォッチャー

マッキー/Makkhiのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

マッキー/Makkhi(2012年製作の映画)
3.5
「恋人を守るため、ハエに転生して自分を殺した男に復讐する」
…まず、これだけの内容で2時間の映画が保つなんてどこの誰が考えるだろうか?それがインド、それがラージャマウリ。

ツンデレガールのビンドゥを一途に想う、スーパーポジティブ&ちょっとストーカー気質の青年ジャニ。その性格が功を奏してか、死後もハエとなって彼女を守り続ける。
ありがちな風に考えれば、フィナーレにおいてビンドゥがハエの正体に気づく…そして涙…とかいう展開になりそうなところだが、どっこい。尺を半分と少し過ぎたあたりで、それは明らかになってしまうのだ。
で、残りどうするの?という心配も杞憂、むしろここからが本番で、ストーリーは飛躍を見せ、加速度的に面白くなっていく。

ちょうど10年後の監督作となる超神話級爆裂エンタメ大作『RRR』においても、この多段ロケット的な展開の技は引き継がれている。他にも、親の仇の如き伏線潰しや「ハエにできそうなこと大喜利」の綿密な積み重ね、アクションにおける音ハメの快感など、振り返れば今作には既に種々の萌芽が見て取れる。ひっくるめて、この怒涛のサービス精神がラージャマウリ節なのだろう。

あるいは、ここ日本以上に女性の社会進出が後進的とされるインドにおいて、「ただ守られる」ステレオタイプなヒロイン像をアップデートする狙いもあったのかもしれない。それ程に、後半の恋人を超えたバディ感はポップで熱い魅力に満ちている。

ところで、ビンドゥにしろジャニ本人にしろハエ転生したことの呑み込みが早いのは、ヒンドゥー文化に根付く輪廻転生の普遍さゆえだろうか。ストリートの屋台はハエのパラダイスだったりするので、日常的な距離も近そうだ。

ひとつ気になるのは、ハエとヒトの時間感覚の差である。ハエは、ヒトの4倍以上のコマ割りで外界の情報を認識しているという。つまり、ハエから見ればヒトは4倍遅く動いているのだ。
だからこそ悪漢社長スディープはジャニに苦戦するわけだけれど、果たしてジャニとビンドゥは意思疎通が取れるのか?

…いや、きっと大丈夫。なにせ生前(?)の彼はビンドゥが振り向くまで2年待ち続けたうえ、空メールでも意思が伝わった仲である。
ハエの寿命は約一ヶ月、彼女の寿命が残り50年(※1)あるとして、あと転生600回!がんばれジャニ、君の戦いはまだまだこれからだ。

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※1:インドの女性平均寿命は72歳。
https://memorva.jp/ranking/unfpa/who_whs_life_expectancy.php