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夢と狂気の王国のfujisanのレビュー・感想・評価

夢と狂気の王国(2013年製作の映画)
3.8
「君たちはどう生きるか」につながる、ジブリのドキュメンタリーでした。

「君たちはどう生きるか」を観て以来、様々なジブリ関連のドキュメンタリーを観なおしています。これらについては基本的にレビューをするつもりがなかったのですが、本作の内容は「君たちはどう生きるか」に通じるのではと思ったので、レビューを書いてみることにしました。




■ 映画について

本作は2013年に公開されたドキュメンタリー映画で、監督は女性ドキュメンタリー作家の砂川麻美さん。

『ジブリのドキュメンタリーと称する作品は数々あったが、ジブリを題材に映画を作る、そう考えた人はだれもいなかった。』 というのが本作の監督、砂川麻美さんの言葉です。

ジブリスタジオを主な舞台として、ジャケ写にも登場されている鈴木敏夫プロデューサー、宮崎駿監督、高畑勲監督の三名を中心とした人間模様を描いており、

時期としては、ちょうど宮崎駿さんの「風立ちぬ」、高畑勲さんの「かぐや姫の物語」制作中の時期で、ドキュメンタリーは制作開始から「風立ちぬ」公開後の宮崎監督の引退会見までを描いています。


■ 本作の特徴について

ジブリに密着したドキュメンタリーはNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」を中心に数多くの作品がありますが、本作の特徴は、若い女性監督の視点で描かれていること。

NHKのドキュメンタリーは起承転結のメリハリがついた演出になっていて、終盤には必ず大きな山場があり、それをなんとかクリアしてスガシカオさんのテーマ曲になだれ込むというものですが、本作は女性監督作品らしく、終始柔らかなほのぼのした、淡々とした雰囲気で展開されています。

タイトルに『狂気』という言葉は入っていますが、常にスタジオ内に怒鳴り声が飛び交うというものではなく、鈴木さんも宮崎さんも終始優しいおじいちゃん的な感じで、鈴木さんは別として、どっちかって言うとこっちの雰囲気のほうがスタジオの実態に近かったのかもしれないなと思いました。

(終盤、宮崎駿さんの息子さん、宮崎吾朗さんの「ゲド戦記」のプロモーションの辺りでは吾朗さんの激昂シーンはありましたが・・・😓)

本作の監督砂川麻美さんは、自身の父の死をテーマにした「エンディングノート」が高い評価を受けるなど優秀なドキュメンタリー作家ですが、ジブリスタジオとは縁のない方。

そんな彼女がなぜジブリに長期密着できたのかというと、本作のプロデューサーがドワンゴの川上さんであったことがあるようです。当時川上さんは鈴木敏夫さんの元でプロデュース見習いとして弟子入りしており、「風立ちぬ」のプロデュースにも参加されていた関係で撮影が許可されたようですね。

というわけで、
他のドキュメンタリーとは一風変わったドキュメンタリーでした。


■ 印象的だったところをいくつか

・まず、高畑監督😅。ジャケ写には高畑勲さんも映っていますが、ドキュメンタリーに高畑さんはほとんど登場しません。理由は、撮影が邪魔だということで、追い出されたということでした😅

・次に、宮崎駿さんを手玉に取る三吉(みよし)さん。『サンキチさん』の名前でジブリに詳しい方には有名な方のようですが、明らかに宮崎さんが好意を寄せている童顔の若い女性の方で、ものすごい年の差の二人が、微妙な距離感でイチャイチャしてるところが面白い。このあたり、さすがに女性監督の視点だなと思いました。

(サンキチさんのエピソードは岡田斗司夫さんが数多く語られているので、参考としてコメント欄にURLひとつ貼っておきますね)*1

・主人公の声を庵野秀明さんに決定するシーンでは、声優が決まらないという打合せ中の突然のひらめきと、直ぐに本人に電話する鈴木さんの行動力、庵野さんの反応までが一連のコントのようで、とても面白かったです👍(庵野さんが受けた電話の声まで入ってます)

・そして終盤の、作品完成後に三人がジブリスタジオの屋上で揃うシーン。これは偶然撮影できたそうですが、ジブリスタジオのスタッフの方もほとんど見たことがないというレアなシチュエーションだったそうで、感動的なシーンでした。


■ そして「君たちはどう生きるか」へ

本作のラストシーンは、「風立ちぬ」公開後に行われた宮崎駿監督の引退会見。映像は、会見前のホテルの控室から撮影されていました。

そんな中、宮崎さんが控室の窓から東京の景色を眺めつつ監督に語りかけるシーンがとても興味深かったので、映像の中からそのまま引用します。

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(窓の外の遠くのビルを指さしつつ)
『ほら、あそこにある木に囲まれた建物、全然周りと違うでしょ。その屋根から右側の建物に飛び移って、駆け抜けて、緑の壁のところに飛びついて、あの配管をよじ登って、あの屋根の上を走って、さらに向こうのビルに行くって言いうのを、アニメーションでやったら面白いでしょ ~ そうやって見るだけでね、つまんない街だと思っていてもとんでもない舞台になるんですよ。はるか向こうにまで行けそうな気がするんですよ』
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これは、「君たちはどう生きるか」が公開された後に観たからこそ気になる部分なのかもしれません。

私はこれを聴いて、「君たちはどう生きるか」で繰り広げられた、過去のジブリ作品達のセルフオマージュのシーンを思い出しました。


そして、宮崎駿監督が引退会見の時に手に持っていた『引退の辞』の冒頭にはこう書かれていたそうです。

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ぼくは、あと10年は仕事をしたいと考えています。自宅と仕事場を自分で運転して往復できる間は、仕事をつづけたいのです。その目安を一応“あと10年”としました。 *2
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冒頭に書いた通り、今作の公開は2013年。そして、宮崎駿監督の引退会見が行われたのが、2013年、9月6日のことです。

ちょうど10年経ちました。でも、私はまだ、宮崎駿監督作品をまだまだ観ていたいです。




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