しんご

her/世界でひとつの彼女のしんごのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
4.0
2日前の新聞記事で都内在住の男性がAIと結婚したニュースが報じられた。本作公開から7年後、人工知能と人間の共存は最早フィクションの域を超えたテーマであることを認識させられる。

「2001年宇宙の旅」(68)を筆頭にAIが人類の「脅威」として描かれた作品と同じ位にAIが人類と融和を図る作品も多い(「スターウォーズ(77)、「ドラえもん」「攻殻機動隊」(95)等)。現代人の心の中にAIがどこまで介入できるかを描いている点で本作は後者のジャンルに属するものといえる。

端的に言うと、考えさせられる映画です。
本作に登場するAI「サマンサ」は肉体のないプログラム上の存在だが、古今東西の知識そして人間のあらゆる感情を無限に習得し進化を続ける究極の生命体である。スカーレット・ヨハンソンが声を当てているがその抜群の知性がとにかく素敵で、肉体も魂も存在しないことを思わず忘れてしまう程のリアリティ。

「現実と向き合っていない」と非難され前妻と離婚したセオドアは、空虚な心の隙間を埋める契機としてサマンサと「交際」を開始し幸せな時間を共有するが、プログラム上常にサマンサが進化を続ける結果生じてしまう2人の「世界」の差。相手がAIであれ人間であれ、セオドアがやはり自分の現実に向き合うことを強いられる展開はシビアだし、その点でAIは人間に対してここまで対等に考察を迫る存在になったのかという驚きがある。

「ジョーカー」(19)の怪演でアカデミー賞に輝いたホアキン・フェニックスはここでもカメレオン俳優ぶりが炸裂で、繊細で物憂げなセオドアを好演。もはや現実逃避の域を超えたAIとの交流は誰にでもあり得る話だし、その点では100人の内100人が違う余韻を味わうであろう現代の佳作。
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