つかれぐま

her/世界でひとつの彼女のつかれぐまのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
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<そんな悪くない未来>

「ジョーカー」のホアキンフェニックスが、人工知能型OS(女声)と恋をする。有名俳優が揃うが意外にも静かな、細部にまでセンスが行き届いた近未来SF。

ヒロインのサマンサはOSなので「声のみ」肉体はない。視覚的には認知できない存在だが、これが他のどの映画の「バーチャル彼女」たちよりも魅力的だ。主人公セオドアは人並みにエロい男だが、その彼がサマンサに真剣に恋愛をし、聴覚情報だけで「男女の行為」にも及ぶ。まあその声がスカヨハだからと言ってしまえばそれまでだが、そうした人間の創造力の素晴らしさをカタチにして見せるサマンサとの「デート」シーンは、フレアの映像ともマッチして美しい。

この恋は成就しそうと思わせつつ、OSの創造力は人間のそれを遥かに超越していくという運命。なにかの記事で読んだのだが、実際にAI同士を対面させると、人間には分からない「超言語」で勝手にコミュニケーションを取り始めるそうだ。我々の「言語」は彼等には下等過ぎるのかもしれない。

それでも本作に登場する未来の人間たちは、言語によるコミニケーションを捨てない。手紙の代筆(手書き風)、紙の本、音声入力、空回りしても相手の心情を慮ろうとする葛藤・・・。こんな未来を信じてみたいと思わせる、開かれたラストの余韻。

「未来はそんな悪くない」と。