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ほとりの朔子のKKMXのレビュー・感想・評価

ほとりの朔子(2013年製作の映画)
4.0
フランス落語家ロメール師匠の『海辺のポーリーヌ』を明らかに下敷きにしたガーエー。

しかし!バカ人間大行進のバカ大爆発コメディだったポーリーヌとは違い、本作はかなりしっとりと叙情的な作品で、ジャパニーズ・センシティビリティという言葉が浮かびました。本作では、ポーリーヌの根幹を成している落語的な与太郎要素はほとんどなかったです。


東京に住むガリ勉で優等生だった朔子は、受験に失敗した浪人生。インドネシア文化を研究している美しい叔母ミキエに誘われて、海辺の街に2週間ほど滞在します。
そこで、ミキエの古い馴染みであるチンピラ上がりのウキチやその娘タツコ、ウキチの甥っ子であるタカシ、ミキエの愛人の大学教授ニシダらと出会います。
本作は細かいエピソードの積み重ねのような作品で(それもまたロメールっぽい)海辺の街で過ごした朔子の2週間を淡々と描いたガーエーでした。


朔子が大人たちの複雑な関係を観察するところはポーリーヌっぽいですが、本作では大人たちの関係性がどこか物悲しく、ブルーな色味を感じました。
(ポーリーヌの大人たちはホームラン級のバカばかりで、ブルーさゼロ!逆に潔い!)
特にウキチとタツコの親子関係はちゃんと複雑で、生きる悲しみが伝わってきましたね。タツコの父への思いのアンビバレンツさは、胸が苦しくなりました。
朔子の叔母・ミキエの他者の影響をあまり受けない内面の強靭さには畏怖するものがありました。ニシダというつまらない相手と付き合ってますが、全面的に受け入れているわけでも無さそうで、ある意味ひとりで生きることがミキエにとって自然なことなのかも。そのように強くならざるを得なくなった背景も僅かに描かれており、ムムムとなりました。

朔子とタカシの関係性は、甘酸っぱくノスタルジックで素敵でしたね〜。この2人の関係は、ポスターにもなった水辺でのシーンや、夜の花火など、場面の美しさ・儚さに託されていて、それもまた映画的で素晴らしかったです。
全体的に多くを語らない作風がとても心地良かったです。

言うなれば、ポーリーヌのエロ珍獣アンリ+押し付け童貞クソ野郎ピエールを組み合わせたような大学教授ニシダのキャラは本作にあまり似つかわしくなかったかも。
自身のチンポパワーだけで次々とセクロスをカマしていくアンリに比べて、ニシダはタツコとセクロスするときにカネをチラつかせるなどショボく弱っちい。まぁ、能書き童貞クソ人間ピエールと融合しているため致し方ないか。というか、本作に暗黒エロ魔人アンリみたいな輩が登場したら作風が変わってしまうので、ニシダくらいがギリ許容範囲ですかね。


演者について。鶴田真由はやはり上品!気品は美しさの最重要ファクターだと思ってます、個人的には。タツコ役の杉野希妃さんはプロデューサーもされている多才な方とのこと。女優としても魅力的でした。
朔子役の二階堂ふみは上手い役者だとは思ったものの、タイプじゃなかったので多分顔を覚えられない。確か新井浩史と付き合ってた人?


ラストにロメール作品へのオマージュについて。日付けがルーズリーフで表現されるのは、晩年のロメール作品と同じでした。しかし!ロメールの場合は予算削減+人を食ったギャグにしか思えなかった演出も、本作だとそんなバカ感ゼロで、センチメンタルな雰囲気が出てました。あ、バカBGMがなかったからオシャレっぽくなったのかも。
ロメールはオシャレガーエーとして受け止められている様子ですが、バカ要素が強すぎてほとんどがギャグにしか思えない。しかし、バカ要素を削ぐと確かにオシャレになりそう。本作の風景の美しさも、ロメール作品と共通していると感じています。ポーリーヌだと、バカ人間の毒が強すぎて、言われてみれば風景良かったかも、くらいにしか思えなかったけどね!

それから本作はロメールとは違いウザ会話が少なく、隙間で見せる作品でした。その点ではロメールより観易かった。
とかロメールをディスっていたら、フランス落語観たくなっちゃった。
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