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トム・アット・ザ・ファームのエディのレビュー・感想・評価

3.7
境界性人格障害を描いたサイコサスペンスだが、狂気や恐怖だけでなく、良い意味で野暮ったさや倦怠感を感じてしまう。見終えたあとに、「アメリカにはうんざりだ」と思える不思議な鑑賞感のある映画。

ゲイのトムは恋人であるギョームを失った悲しみも消えぬとき、ギョームの葬儀のために実家である田舎の農場へと向かう。ギョームの母はギョームが同性愛者だと知らず女性と婚約寸前だと思っていた。このため、唯一事情を知るギョームの兄フランシスはトムに、「母を哀しませないために嘘を付き続ける」脅しをして、暴力でトムを支配するようになる。
田舎の閉鎖空間の中で逃げるための車を焼かれたトムは、やがてフランシスの凶暴性の中にギョームを見出し、精神的に支配されて行ってしまう。。。

一言で言うと、か弱い「男の娘(ゲイの女役)」が彼氏の葬儀に超田舎まで行ったら、逃げる手段を奪われて凶暴な兄に精神支配されてしまい、感化されていく恐怖と描いた映画だが、
良く良く観るとオープンでリベラルなアメリカの闇を滑稽に描いたような映画になっているのがこの映画の面白いところだ。

主人公のトムはなよなよしていて、暴力を振るわれてもギョームの母に真実を打ち明けられず友人まで引き寄せてしまう。この辺のくだりはまさに新興宗教から逃げられなくなった奴と同じだ。実際、トムの目つきはだんだんと怪しくなっていく。

結局、トムは逃げ出すのだが、洗脳されてダンスを踊るシーンが一番印象に残る。暴力の支配は恐怖の気持ちすら幸せに変えてしまうのか?

この映画の魅力は変わってしまうトムだけでなく、境界性人格障害としか思えないギョームの兄フランシスの存在も重要だと思う。仕方がないので嫌な仕事を何の楽しみもない田舎で延々としている生活を長年続けているフランシスは、まるで無間地獄に陥った餓鬼のようだ。逃げ出すことをせず、他の人を引き込んで一緒に不幸になることで、ささやかな幸せを見出すというフランシスの存在は、怖さだけでなく(意思があれば出れるのに田舎に留まっているので、自身で地獄を選択しているという)滑稽さを感じてしまうのだ。

「うんざりだ」という捨て台詞で話が一気に変わり、ラストシーンに流れる映画でも「アメリカはうんざりだ」というような歌詞の極がかかっているので、逃げ出すトム以上に、留まるフランシスの狂気と滑稽さを感じてしまった。

怖いだけでなく、「わざわざドツボにはまっている滑稽さ」を感じる不思議な魅力を持つ映画だった。
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