結湖

それでも夜は明けるの結湖のレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.8
とても美しい映画でした。
内容の壮絶さをもってして、この感想ってどうなの?って感じではありますが、それにしてもひどく美しい映像でした。
全体に彩度と明度が高く、どのシーンを切り取っても綺麗で、逆にこの物語は幻想なのではないかと思わせます。
しかし、この映画は実話を元に作られている、過去にあった奴隷制度を描いた現実の物語です。
恥ずかしながら”自由黒人”という言葉を初めて知りました。証書があれば、自由に生きられる黒人。まぁ、証書があればって限定がある時点で自由じゃないよね。なんて時代だ……。
奴隷に対して暴力をふるうシーンが続きますが、なかでもソロモン(キウェテル・イジョフォー)が足がつくかつかないかの状態で首を吊られているシーンの恐ろしさったら、もう!
そんな状態の周りで普通に生活しているのがうつりこんできたり、音楽もないし、そんでもってこのシーンが長い!!あーもう、怖い!!
人というのはこうまで残虐になれるものなのかと思うと、言葉が見つかりません。なんて言っていいものか。
それにこの映画を複雑にしているのは支配者側を徹底した悪として描いてない部分があるからかもしれません。
卑劣なエップス(マイケル・ファスベンダー)ですら、自身で消化しきれない葛藤が見え隠れしていて、なんともいえないやるせなさがあります。しかもこれがまたファスがとてもうまい。ものすごくかわいそうなんだもの。
監督の前作『SHAME』でもそうだったように、今作も主人公のモノローグやナレーションが一切なく、細やかな演技と演出だけで描かれています。凄惨な内容なのに、とても静かで、けれどドラマティックです。
しかし、この映画は過去ではなく今も暗い影を落としているということを示しているのかもしれません。今なお大きく話題になるというのは、たぶんそういうことなんだろうと。
難しい問題です。
そんななかで、この映画の映像の美しさは唯一の救いであるのではと思わずにいられません。
そういった意味でも、この映画はとても美しい映画だったと書き留めておきます。
2014/10/02:BD
結湖

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