こたつむり

それでも夜は明けるのこたつむりのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.8
19世紀のアメリカ。
拉致されて奴隷となった黒人の物語。

お恥ずかしい話ですが。
本作を鑑賞するまで“奴隷制度”と“人種差別”を区別して考えていませんでした。しかし、どちらも似ていて非なるもの。それが絡み合って“歪んだ一本の樹”を作り上げていたのですね。

そして、本作が主軸としているのは。
奴隷制度の是非ではなく、この差別意識。
特に「自由黒人」という吐き気を催す単語は…何でしょうかね。かつて「南アフリカでは、黄色人種は準白人と呼ばれる」と聞いたときに抱いた違和感に似ています。そう。如実に差別意識を刺激する言葉なのです。

でも、本作の主人公は。
この単語や立場には疑問を呈しません。
むしろ、拉致されたことが判ったときに「自分は自由黒人だ。誰かと間違ったのではないか」と主張するのです。つまり、差別されている彼の中にも差別意識が存在するのですね。

勿論、これは彼が悪いわけではありません。
当時はその価値観が一般的だったのです。そして、その価値観が“表面上”払拭されるまでには、大量の血と時間が必要だったのです。だから、本作はスッキリしない物語でした。差別意識を克服するわけでもなく、淡々とした筆致で事実を積み重ねているだけですからね。

しかし、その感情を抑えた演出が。
まるでドキュメンタリーのように訴求してくるのです。時折、挟み込まれる俯瞰の画も含めて、客観的な立ち位置を心がけているのでしょうね。過酷な現実に過度な演出は不要なのです。

ただ、それだけに。
本作のキーパーソンをブラッド・ピットが演じたのは…物語の根底を吹き飛ばすほどに違和感が満載でした。曲がりなりにも彼はスターですからね。その存在だけで画面が華やぎ、泥臭くて痛ましい物語から目が逸れてしまうのです。本作に限って言えば、裏方(プロデュース)に徹するべきでした。

ただ、もしかしたら…。
その違和感も見越した配置だとしたら…この監督さんは策士ですけどね。

まあ、そんなわけで。
奴隷制度の悍ましさを描いた『マンディンゴ』とは一線を画く物語でしたが、少なくとも人種差別や奴隷制度を考えるきっかけにはなると思います。現代の日本にだって、差別意識は根強く残っていますからね。けっして他人事ではないのです。
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