ベイビー

ダラス・バイヤーズクラブのベイビーのネタバレレビュー・内容・結末

ダラス・バイヤーズクラブ(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

主人公の心の成長を丁寧に描いた、とても素晴らしい作品でした。

作品の冒頭、人の金を持って逃げるロンはクズそのもので、生きる価値を見いだせません。酒・女・ドラッグ・賭け事、何でもありの自称ロデオ・カウボーイです。普通、ロデオ・カウボーイといえば「勇敢」なイメージですが、ロンには勇敢というより、何か人生から逃げているようで「情けない」という言葉の方が似合います。

そんな日常が祟ってか、ある日病院でHIVの陽性反応が見られ、余命30日を宣告されます。人は無知から恐怖が生まれ、大きな誤解や偏見を作ります。まだエイズが出始めた頃のことを思えば、少ない情報や知識からなる恐怖へのあおりは、偏見を産む大きな要素だったと思います。ロンも偏見を持っていた一人です。トランジェンダーを蔑んでいたにもかかわらず、自分も他人から同等に蔑まれ、偏見を持たれます。プラス死の宣告も受けているのですから、ロンの憤りは計り知れません。

ロンは必死に生きようとします。どんな手段を使っても、自分のやり方で生き抜くことを模索します。最初は特効薬と信じAZTを服用していましたが、メキシコでモグリの医者に助けられたあと価値観が変わり、その医者が推奨するddCとペプチドTを服用しはじめ、その薬が特効薬であることを身をもって証明しようとします。しかしそこに立ちはだかるのは、FDAの未承認薬という大きな壁です。

ロンは効果的で安全な薬を無許可で販売することにしました。はじめは自分のため、金のための行為でしたが、レイヨンを通し、自分と同じ病で苦しむ人のために動きはじめます。冒頭のロンからは想像できない心の変化です。仮にロンの心の成長を正義とするならば、変化も成長も見込めないFDAは悪と言えるのかも知れません。治療結果どころか、副作用で身体を悪化させかねないAZTを認可し続け、無毒で効果の見られるペプチドTを認可しようとしないFDA相手に、ロンは立ち向かいます。それは昔のロンではありません。勇敢なロデオ・カウボーイのように、凛として余生を掛けて闘うのです。

劇中に、ピエロの映像が三度ほど見られます(最後の一度は置物として)。実際のロデオ会場のアリーナの中には、牛とライダーの他に、ピエロの格好をした人が二、三人居るそうで、その人たちのことをロデオ・クラウンと呼ぶそうです。昨今では、ブル・ファイターと呼ばれることが主流で、ライダーが牛から落ちた際、狂暴化した牛からライダーたちを身を呈して守っているそうです。

ロンの最後の生き方は、ブル・ファイターを地でいっているようです。もちろん牛はFDAでロデオ・カウボーイはHIVの感染者たちです。ロンは身を呈してHIVの感染者たちを守っています。最後のサンフランシスコの法廷での訴えは、無情にも棄却となり、裁判は負けてしまいましたが、帰宅後に待ち構えていた、HIV感染者たちの賞賛は鳴り止みません。その賞賛は、皮肉にも自分がHIVに感染してからでないと得られなかったもので、言わば命と引き換えで得た「人らしさ」というものかも知れません。そして、最後にロンは勇敢なロデオ・カウボーイとなって、多くの歓声を浴びながら物語は幕を閉じます。

それにしても、冒頭からのマシュー・マコノヒーの演技は圧巻です。最初、演技が凄すぎて、ストーリーが全然頭に入ってきませんでした。彼の演技を観るだけでも、この映画を観る価値があります‼︎
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