饂飩粉

天才スピヴェットの饂飩粉のレビュー・感想・評価

天才スピヴェット(2013年製作の映画)
3.5
 映画の表面だけなぞってみれば、アメリカ映画らしい、家族の再生を描いたロードムービーといったところ。
 10歳にも満たない次男を失って、表向きは平常運転でも精神的にバラバラになっていた家族。
 そんな折、長男であり主人公のT.S.スピヴェットに、自身の発明(設計図)が大きな賞を受賞したとの報を受ける。
 アメリカ西部の片田舎に住む彼は、貨物列車に無賃乗車して授賞式の開催地である東部のワシントンを目指す……。
 バラバラだったはずの家族は、肉体的に離れる(次男を失った過去と同じような境遇に置かれる)ことによって過去を受け入れ、その結びつきを取り戻す……まあなんてことないファミリー映画の筋書で、「普通に良い映画」だった。
 終始主人公の子供の視点で話が進む。家族に対する独白が意外と的を射ていたり、ワシントンに着いてから出会う大人たちの内心が、不思議なことに彼らの心情を直接描くよりも伝わってくる。子供は周囲が思うほど馬鹿ではなく、そんな周囲の人間達を見て今この瞬間も成長しているのだと思わせる。

 でもどこか腑に落ちない点があって、それは次男の死のキッカケにも繋がる。
 どう考えても次男に銃を渡して遊ばせていたのは、カウボーイ気質の父親なのだが、その点に関しての言及は劇中で一切なされない。母親(ヘレナ・ボナム=カーター)や長女はもっと父親のことを恨んでいてもいいなじゃないか? と思わなくもないのだが、その辺りは完全にスルー。このせいで、「単なる家族の再生を描いた映画」とは思えないしこりが残る。

 っていうか舞台はアメリカなのに監督はフランス人のジュネだし、制作国に至ってはフランスとカナダ。アメリカなのは精々使用言語が英語なことくらい。
 それなのになんでアメリカを舞台に家族の再生を描いているのか。考えると泥沼にはまりそうなのでやめときます。

 ちなみに評判よさげな3D効果に関しては、至って正攻法でしっかり3Dしているな、という印象。主人公の居場所が変わると共に現れる「飛び出す絵本」を3Dで表現する、というのはかなり王道、もしくは案外「その発想はなかった」的な感じ。
 別に「3Dすげぇ!」というわけではなく、「3Dで観ると楽しい」と思えるような使い方をしている。
 とはいえ「超大作だから3Dでいきましょう」みたいな、とってつけたようなものとは段違いの3D映像を体験できる。これが本来あるべき、映画における3Dの使い方なんじゃないのかな。
饂飩粉

饂飩粉