饂飩粉

ナイトクローラーの饂飩粉のレビュー・感想・評価

ナイトクローラー(2014年製作の映画)
4.3
 他人のものを盗んで売って金にするのは、控えめに言って泥棒が生業ということだ。
 この映画の主人公ルイス(ジェイク・ギレンホール)は恐らくずっとそうやって生きてきた男で、冒頭から「あ、コイツやばいな」と思わせるシーンで華麗に登場する。
 ルイスはマジで蚊とかノミみたいな奴なんだけど、「自分はデキる男だ」と思い込んでいる。その理由は日本で例えると「ソースは2chまとめサイト」みたいなもので、とにかく虚しい。でもルイスはそんな虚しさに、多分心の底から気づいてない。ある意味天然。
 そんなルイスはある日偶然事故現場に出くわし、そこにズカズカと踏み込んでひたすら"スクープ映像"を撮り続けるパパラッチを見たときピンとくるのだった。
 警察無線を傍受し、いち早く現場に駆け付けTV局が買い取ってくれそうな映像を撮る。勿論人が血を流していても決して手を貸さないし、納得のいくものが撮れればさっさとその場を後にする。まさに現代の蚊!ノミ!デパ地下の試食コーナーで食事を済まさんが如き所業!
 されど、お茶の間に刺激を与えるニュース番組の内容は、そんなパパラッチの手によって成り立っている。パパラッチの姿は実際目にするとドン引き確実なのに、お茶の間はそんなパパラッチが撮った映像を見て「あらヤダわーもー」なのだ。「人が命の危険に晒されてるのにただ撮ってるだけとか最悪だな」などと微塵も思わない。TVや映像コンテンツに限らず、多くのサービスは得てして受け取る側を一定の方向に誘導する。それはビジネスなんだから当たり前だけど。

 さて、パパラッチを蚊で例えると「刺されてもかゆくならないタイプ」の蚊だ。人は「ああ、蚊さんも生きるのに大変だなあ」と思うこともなく、主人公のような存在を無意識のうちに許容している。
 話はメチャクチャ逸れたが、これほどルイス君にピッタリの仕事はない。
 そして彼は持ち前の虚しい人生観というか傍から見たらハリボテでしかない人間性みたいなものを活かし、狂気にひた走ることもなければ一切葛藤することもない。ハリボテだからそんなこと考えられないのかもしれない。
 しかし、ハリボテも極めれば「強いハリボテ」になる。
 それはもうそこんじょそこらのハリボテとはワケが違っていて、そこに至ってようやく「狂ってる……」と感じられるのだ。

 持論ですらない誰かの受け売りだらけの人間が、経験と実績を積んで覚醒する……それは確かにサクセスストーリーだし、まさに"刺激的"だ。だがやってることは狂ってるとしか思えない。
 そういう意味では『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とか『ペイン&ゲイン』とかと同じテイストを感じるのだが、主人公ルイスの目的は上記二作とは大きく異なる。そこが本作の面白いところでもある。

 主人公を演じたジェイク・ギレンホールの目はかつてないほどにギラギラしていて、夜のロサンゼルスの風景にドンピシャ。あの目でニッコリするのは正直めっちゃ怖いからやめてほしい。
 というわけで、というわけでもないが『ナイトクローラー』は面白い映画だ。
 人は、自分が一体何が得意な人間なのかに気づけると幸せだなあ
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