ニューヨークを舞台に、モダンダンサーを目指す女性の人生をモノクロで描く。
大柄で老け顔の独身女子フランシス。部屋は散らかり、食べ方は豪快で、不器用で行き当たりばったりで、ノシノシ歩きにドタバタ走り。
そんな27歳の彼女に抱く感情は不快感ではなく、むしろ親近感。なぜなら彼女は映画のヒロインではなく、その辺にいる等身大のアラサー女子だから。
青春は過ぎた。人生を見つめて選択する時だ。フランシスは「今」を疾走する。過去の回想も未来の想像もない。今この瞬間を遮二無二生きている。
白黒の美しいニューヨークの街並み。走り出すと流れるポップミュージック。巧みなカット割りと編集によって画面に躍動感が溢れている。
「一日が24時間じゃ足りないよ」
ふと、山田かまちの言葉を思い出した。フランシスの時間も足りないようだ。しかし、もがく時間はたっぷりある。走っているのに進まない。3歩進んで2歩さがる…。
フランシスが語った「特別な瞬間」が一番心に残った。
「誰かと同じ空間にいて、特別な存在だと互いに分かってる。でもそこはパーティー。お互い別の人と話してる。ふと部屋の端と端で目が合う。嫉妬でも性的な引力のせいでもない」
別れた彼氏にはそれがなかったのだろう。終盤、親友と目が合った時、それが訪れる。
カクテルパーティー効果というものがある。たくさんの人が談笑する中で、好きな人の声や必要な情報だけを聞き取ることで、フランシスとソフィーの間には視覚的カクテルパーティー効果を感じた。
それは誰も分からない特別な瞬間。
タイトルに繋がるラストシーンの「ハ」に、枠を計算しないガサツな性格、枠に囚われない自由な生き方、そして未完成な「自分」という意味を感じた。