松原慶太

リスボンに誘われての松原慶太のレビュー・感想・評価

リスボンに誘われて(2012年製作の映画)
3.2
スイスのベルンで、古典学を教える孤独な初老の教師ライムントが、ある雨の朝、身投げをしようとしている女を助ける。

女は赤いコートと一冊の古本を残して姿を消してしまう。

残された本はポルトガルの無名の医師が書いたものだった。ライムントはその本を読むうちに「まるで自分が書いたかのようだ」と引き込まれ、ページに挟んであったチケットを手に、思わずリスボン行きの夜行列車に乗り込んでしまう…。

とにかく導入部は素晴らしい。ジェレミー・アイアンズ演ずる主人公の佇まいや行動にも共感できるし、ベルンやリスボンの街並みに見とれているうちに、自然と物語の内部へと惹き込まれていく。

中盤以降は、本の著者アマデウの青年時代(70年代独裁政治下のポルトガル)と、その足跡を追う現代のライムントと、物語が平行してすすむことになる。

70年代政治の季節、アマデウはレジスタンス運動に身を投じていくとともに、激しい恋愛に墜ちていきます。

ところがですね、この過去編の話が、あまりおもしろくない(笑)。

政治の季節の高揚感というか、時代のうねりみたいなものが描かれるわけでもなく、三々五々、ぼちぼちと小さなミーティングをしているだけ。そしてそのうち、女をめぐって、しょーもない三角関係が発生する、みたいな。現在から見て、別にあこがれるようなヒトたちにもみえないんですね。役者の力量もあるのかなぁ。

逆に、現代編は、ジェレミー・アイアンズ、シャーロット・ランプリング、ブルーノ・ガンツ、クリストファー・リーと、もう、そうそうたる顔ぶれなわけです。現代編にでてくるひとたちのほうが、よほど渋くて魅力的なわけです。なので、これ作りとしては、おかしなことになってますね。

とてもていねいに作られた佳品で、風景と役者を見ていて眼福感があるだけに、ちょっともったいないなと思いました。
松原慶太

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