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フォーリング・マン 9.11 その時、彼らは何を見たか?のTSのレビュー・感想・評価

4.0
【忘れない勇気】84点
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監督:ヘンリー・シンガー
製作国:イギリス
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:76分
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いやあ、これはもっと平均スコア底上げされるべきだ(笑)アメリカ市民があまりにもショックすぎてその真実を隠したかった。そんな「飛び降り自殺」について追及した9.11関連のドキュメンタリー映画です。ジャケットにも写っているこの印象的な写真は、実はあのWTCから飛び降りた人を捉えています。この写真は、9.11事件の翌日の新聞に大々的に掲載されたようですが、あまりにも不謹慎な写真であるため非難が殺到。わずか1日しか脚光を浴びなかった曰く付きの写真でもあるのです。

先日9.11関連のドキュメンタリー映画をMarkしたばかりでしたが、今作もかなり秀逸だと思います。この事件は大きく分けて三つの視点から語られることが多いです。一つは消防士からの視点。もう一つは激突した飛行機内からの視点。そして最後の一つがビルに取り残された人からの視点。どの視点も地獄絵図であり、今作はその中でも焼死するか飛び降りて死ぬかという究極の二択を迫られた、WTC上階付近にいた人たちに焦点をあてています。改めて考えるととても恐ろしい。自分なら果たしてどちらの運命を選ぶでしょうか。WTCの高さは400mを下りません。飛び降りて生き残れる確率は限りなくゼロ。しかし、彼らは自由意志を持ち飛び降りを選んだのです。そして、それを捉えた衝撃の写真。しかし驚くことに、この事実はなかったことになってきている、つまりタブー視されるようになってくるのです。

これはアメリカの宗教観もあるのでしょう。キリスト教において、自殺をするということはすなわち地獄に落ちるということ。飛び降り自殺を認めれば、その遺族たちは永遠に苦しむことになってしまいかねないのです。しかし、果たしてこれらの事実をタブー視して忘れ去っていくことにして良いのでしょうか。むしろ、彼らの行為は悲劇の事件の象徴として語られるべきものであると思われます。忘れ去るのではなく語り継ぐ。この姿勢は歴史を伝えるために最も大事な姿勢でもあります。

WTCを呆然と眺め、運悪くもその自殺の瞬間を見てしまった傍観者も、一生消えることのない心の傷を負ってしまったことでしょう。間違いなくこの事件はアメリカにとって最大級のトラウマであるのです。従ってなるべく多くの不都合な事実を隠したい気持ちもわからないわけでもない。今作がアメリカのドキュメンタリー映画ではなく、イギリスのドキュメンタリー映画であるということもそれを静かに物語っています。

ただ、第二次世界大戦のホロコーストなどの事実を忘れてはならないように、この事件もまた忘れてはいけないものです。忘れると人間はまた同じ過ちを繰り返す。そんなものは歴史がはっきりと証明しています。今作は「忘れない勇気」というものを感じ取らせてくれた作品であると思いました。
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