けーはち

誰よりも狙われた男のけーはちのレビュー・感想・評価

誰よりも狙われた男(2014年製作の映画)
3.8
スパイは本来どこで何していても不自然じゃないよう地味じゃなきゃいけない。イーサン・ハントやジェームズ・ボンドじゃダメなのだ。その点、ドイツの諜報員バッハマンは眼光鋭く策略家だが見た目はちびでデブ。性格俳優フィリップ・S・ホフマンはうってつけ。彼は港湾都市ハンブルグに密入国した一人のチェチェン人青年イッサに目をつける。彼を泳がせ大きな魚を狙う対テロ特殊チームと、彼を救おうとする人権団体の女性弁護士、虎視眈々と手柄を狙うCIAの諜報員──様々な思惑が彼を中心にうごめく。精細でリアルな筆致のスパイ小説に定評がある元MI6のル・カレ原作スパイ・スリラー。めちゃくちゃ地味だが名優揃い踏みでじりじりと真に迫る緊張感ある展開で魅せる。警察ではない国家権力が、盗聴・盗撮・恫喝・拉致監禁・相手が拒みようがない半ば脅迫めいた司法取引、ヤクザまがいの何でもござれでテロリストのしっぽを掴むため邁進する。「世界を少し平和にする」……ただ、それだけのことなのに、どれほど難しいか。

そしてヨーロッパ諸国絡みで、世界の警察アメリカのやり方がいかに傲慢かというのも垣間見える。9.11の首謀者たちが、このハンブルクに潜伏してテロの実行計画を練り上げたことが明らかになったということを踏まえると、CIAの焦燥もさもありなんという感じだが……。

なお主役のホフマンは46歳でヘロイン中毒で、本作を遺作に急逝。RIP🙏