むっしゅたいやき

モーゼとアロンのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

モーゼとアロン(1975年製作の映画)
4.0
思想とイメージとの乖離。
ジャン=マリー・ストローブ&ダニエル・ユイレ。
旧約聖書の出エジプト記に題材に採った、アーノルト・シェーンベルクの歌劇を映画化した作品である。

目に見えない神を、その儘言葉のみで理念として布教するモーセと、民衆へ神をイメージし易い金の子牛像(形式)を示すアロンの物語。
三部構成から成っており、第一部ではアロンとの出会いから布教へ至る道程を、第二部ではモーセ、ひいてはその信奉する神へのアロンの反駁を、第三部ではその暫く後の二人が描かれる。

本作の主題となるのは、“神(想念)は語り得るものであり、他者へ伝えられる物なのか否か”であろう。
原始ユダヤ教の布教に於いても活動は言葉や文字(形式)を以て為された事は想像に難くない。
では、この“遍く存在する神や想念を、言葉は正しく現しているのか?”“そうで無いならば、何故形式であると云う点で言葉と同じである金の子牛像は破壊され、それを信奉した民は虐殺されたのだ?”、とシェーンベルクは問うのである。
途中挟まれる何故か不揃いなダンスが、神や理念への一糸乱れぬ統率から、偶像崇拝を経て個人主義へと走った民衆を表す、とするのは些か我田引水に過ぎようか。

全編に渡りキレの有るショットが見られる作品であるが、やや煽り気味のバストショットと俯瞰からのパンフォーカスが特筆に値する。
歌劇を屋外で演じている事に由る環境音も録音されているが、舞台となる乾き、赤茶けた地面と共に旧約聖書の世界観を上手く表している様に思われる。

第三幕は短く、モーセのアロンへの侮蔑の言葉も空しい儘、唐突に終わる。
私にはそれはまるで、モーセの諦念が表されているかの様に感得されるのである。
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