トルコ、カッパドキアの風景、世界遺産に登録された岩窟群に映しだれる人間模様。洗練された美しい作品を鑑賞できた事は喜びだ。
第67回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得しその他数々の賞を受賞するのは納得、
「登場人物を通して、人間の魂を暗部を探求したかった」と、監督が語っている通りこの映画は哲学であり、
会話劇でありながら画面から伝わってくる緊迫感に3時間19分という長さを感じさせなかった。
経済的にも豊かであり教養もある主人公のアイドゥン、しかし彼の苦悩は深い、そこにはより良き人になろうともがく人々の思いが投影されている。
なんて人間は思い通りにならないのだろう。
どうして他者と分かり合えないのだろう。
アイドゥンを取り巻く環境が物語が進むに従って変化し、それと共に人々の感情も露になっていく。
その姿は滑稽でもある、
しかし自分の心の深淵をえぐり出していく。
ジャ・ジャンクー監督がこの作品について、
「本作で最も印象深いのは、その"広がり"だ。人間性や生きる事を広い視野でとらえている」
とコメントしているが、自分はそのコメントに凄く共感する。
人間の未熟さをこれでもかと見せつけながら、雄大な自然が変わらずそこにあって、人を魅了もし苦しめる。
映像はいつしか雪によって閉じ込められていく。
その風景の移り変わりさえも物語の中に計算され演出された巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイランに脱帽である。
この映画は全てが風景のようである。
登場人物の顔に描かれる表情もまた然り。
ただただ流れていく風景を見つめる映画。
そして繰り返されるシューベルトのピアノ・ソナタ 第20番。
素晴らしい。