結湖

アメリカン・スナイパーの結湖のレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.2
深く、重たい映画なのに、とても面白かったです。
とか、書いたら不謹慎かもしれないんですが、見終わって最初に思ったことを書くようにしてるので、あしからず。
というのも、この映画は戦場で起こっていることをたんたんと描いているというドキュメント性はもちろんだけど、対極にあるエンターテイメント性も高いという二面性があるんですよね。
これがとても絶妙。
なぜなら、クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)の戦場と帰国してからの日常とのとてつもないギャップに苦しみ、心を病んでいく様子を描くだけなら、考えさせられるけど観てる方は楽しくない。(そりゃそうだ)
しかし、戦場の緊迫感をさらにハラハラさせる存在があることで、最後まで気が抜けなかった。
しかも、それがドラマティックすぎると主題からそれてしまい、戦争賛美にもなりかねないんだけど、本当にそれが絶妙に上手くて、面白かった。
そう考えると、エンドロールに音楽がないのもなんとなくわかる。
劇中の音楽って印象が強くて、どんな映画でもエンドロールで音楽を聞きながら、これはあのシーンだなって思うとおもうんですけど、この映画は戦場と日常のギャップがありすぎるために、音楽を流せばその印象が強く残るんだと思うんですよね。
ヒーローとしての音楽だとそれが主題になってなってしまうかもしれないし、戦場の音楽なら凄惨さしか残らず、日常やクリスの苦悩なら、結末が霞んでしまいかねない。
なら、逆に選べなかったんじゃないかなぁ。(えー!?)
なんて、思ったりしました。(勝手な推測なので本気にしないでね)
それにしても思い切った演出だなぁ。
それを踏まえると、この映画って本当にとても重くて、無音のエンドロールでなにを思うかで全く変わってしまうかもしれない。価値観の差がでそう。

「誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事。
 正義の味方っていうのは、とんでもないエゴイストなんだ」
ってのは、某ノベルゲームの言葉ですが、伝説と言われたクリスが正義の味方といえば、どうなのか。
どちらの側にも自分の中に正義があって、その矜持に縛られている。だから、過酷な戦場で自身を保っているってのはそもそもどこかしらおかしいに違いない。心を病んでしまうのは当然だよね。
自分で選んだとはいえ、過酷な職業だよ。殺される恐怖もだけど、誰かを殺すことの恐ろしさ。どんな正義が自分の中にあっても、割り切れるもんじゃないよ。そうだって口では言ってたってさぁ。
一見、平静さを保っているクリスの深い闇を、コメディの印象の強いブラッドリー・クーパーがそれを覆すほど見事に演じていています。
クリント・イーストウッド監督の特徴的な強い陰影の画面も印象を残していています。
とても見応えのある映画でした。
2015/03/01:TOHOシネマズ新居浜(字幕)
結湖

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