こたつむり

ある優しき殺人者の記録のこたつむりのレビュー・感想・評価

ある優しき殺人者の記録(2014年製作の映画)
3.5
♪ どこまで知ってる?絶対に知られたくない
  舞い降りてきた 薬をなぜか飲んだ

白石晃士監督ワールド炸裂!
…と言いたくなるほどに、特徴的な筆致が冴え渡る作品でした。

モキュメンタリー仕立ての演出は当然として。
“神のお告げ”がキーワードなのは他の作品に通じていますし、何よりも“目を逸らしたくなる嫌な部分”に敢えて首を突っ込む性分。それが監督さんの最たる特徴だと思うのです。

本作で言えば、それが顕著なのは街並み。
舞台となる廃墟に向かうまでに積み上がるゴミの山。韓国が他の国に見せたくない“負”の部分。それを遠慮なく映し込む時点で、不穏な雰囲気が漂っているのです。

また、配役も秀逸でした。
“吐き気を催すほどに下賤なチンピラ役”に米村亮太朗さんを配したことで、彼を襲う殺人者(主人公)だけが“悪者”になりません。これは見事な計算でした。

そして、緊張感だけではなく弛緩も有効活用。
中盤の展開は「俺は何を観ているのか」と口走るほど、ダラダラで、グダグダで、ネチョネチョで、ズッコンバッコン。完全に斜め上をいく発想ですね。凡人の僕には付いていくので精一杯ですよ。

それと女優さんの選定も見どころのひとつ。
主人公の幼馴染を演じたキム・コッビの倖薄そうな表情も良かったですし、出番は少ないですが、終盤に出てくる“彼女”は口笛を吹きたくなるほど。最高です。

ただ、B級であるのは確実。
背筋が寒くなるとか、大音量に驚かされるとか、ベタベタなホラー映画を期待したらダメですね。肩の力を抜いて「ちょっと“厭”なものでも観るか」くらいのスタンスが吉なのです。

まあ、そんなわけで。
信じるものは救われない…そんな皮肉たっぷりの『オカルト』に触れていたからか、本作も最後の最後まで楽しむことが出来ました。そういう意味では、他の作品で洗礼を受けてからの方が良いのかも。
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