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ブラック・スキャンダルのsamurai_kung_fuのレビュー・感想・評価

ブラック・スキャンダル(2015年製作の映画)
3.0
カトリックのミサといえば、神父が丸い小さなお菓子「ホスチア」を信者の口に入れて十字を切るあれだ。『ブラック・スキャンダル』原題の「Black Mass」(黒いミサ)とは、ヤクザのバルジャーがホスチアよろしく子分や関係者に施した“恵み”を現しているのだろう。
活きのいい若者には景気のいい施しを与え、幼馴染みのFBI捜査官に対立するヤクザの本部を教え、新事業を共にするヤクザ仲間には信頼の証として大金を与える。しかし、カトリックのミサと違うのは、その裏に「無制限の寄付」の要求があるところだ。
この映画に寓意のようなものがあるとすれば「ヤクザとの約束が果たされたら無制限の寄付を求められる」といったものになるだろう。
だが、この史実自体が孕んだ寓意は、「無制限の寄付」の裏にあるヤクザの家族的な関係性だ。親が子に向ける愛情は見返りを求めない無制限にあふれ出る、正に「無制限の寄付」だ。同様の“愛”を子分たちに求めるのがヤクザの親分である。
バルジャーも子分たちに僅かな瑕疵も無い絶対の信頼を求める。同様に愛する息子や母親、弟に無制限の愛を傾ける。特に息子へは強く絶対の愛を。その愛の対象たる家族を少しずつ失い、バルジャーの愛は奇妙な方向へ向かう。
その愛の混迷さを混迷したまま描き出しているあたり、同分野での、たとえばスコセッシの手腕には届いていない。
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