「負けたのは戦ってたから」
クリープハイプの主題歌にも表現されているけど、生活する中で誰もが感じる「分かっちゃいるけど抜けられない負のスパイラル」を断ち切ろうと奮闘する女性を描いた良作。
スポーツをテーマにした作品ながらも嘘臭いサクセスストーリーに仕上げられてない点が最高に素晴らしい。人って本当にちょっとしたキッカケで変わろうと頑張るし、そこに成功が伴わなくてもその過程に成長があるものなんだと本作が教えてくれる。
そんな誰にでも起こりうる「日常の成長物語」において、登場人物と環境の描写の巧さがとにかく際立っていた。100円ショップの休憩室の薄暗い汚さは社会の吹き溜まりの縮図のようだし、クソウザい店員の野間は本当に演技なのかと思う程の憑依振りで現れた瞬間に不快感を催すほど。廃棄品をこっそり貰いに来る池内さん役の根岸季衣の飄々振りも貫禄があるし、何が起きても「マジっすか」しか発しない店員の西村はじわじわ笑える。
何よりも安藤サクラの演技の壮絶さね。ボクシングに取り組む中で体型のみならず、喋り方まで変わっていくのが本当に凄い。お父さん役の伊藤洋三郎が「お前、少し変わったな」って居酒屋で一子にしみじみ語るシーンがあるけど、観客も全員同じこと思ったよ。
そんな一子が夜の階段で嗚咽まじりに泣くのは彼女の完全なる成長を象徴するシーンだし、観てるこっちも胸が締め付けられた。その後の新井浩文のセリフはズルいね。
役者の力を感じた映画。