つかれぐま

岸辺の旅のつかれぐまのレビュー・感想・評価

岸辺の旅(2015年製作の映画)
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<異人たちとの夏>

黒沢清ファンにはいつものホラーとして、ビギナーには良質の夫婦ドラマとして楽しめる。NHKが地上波放送したほど、黒沢作品では一番間口が広い。

と言っても、題材があれなだけに、観る方による補完が要求される作りだ。欠落したピースを考えて埋めていくという作業が楽しめるのだが、これは劇中の浅野忠信が死後の彷徨いで自分の人生の欠落を埋めていったのと同じ。メタに共感させることで、気が付けば(客観的にはアウトな)彼の生前の行動を肯定しているという巧みな作り。

僅か1シーンだが、深津絵里と蒼井優の対峙が凄い。主演夫婦を俯瞰するような蒼井の役は、後の「スパイの妻」聡子にも似たしたたかさを見せる。そこにひるまない深津の、なんというか自己肯定力。もはや愛欲も血縁もない中年夫婦は一体何で繋がっているのだろうか?蒼井の強さが「夫婦」という関係(「絆」なんて解りやすいものじゃない)の底知れない力を引き出す。

「異人たちとの夏」が観たくなった。
ジャンル不定な黒沢清の作風は唯一無二と思ってきたが、彼のフィルモグラフィは大林宣彦のそれに似ている。ホラー、アイドル、反戦・・特定のテーマや俳優に固執しない自由過ぎる二人。

深津絵里の最後の台詞は、黒沢清があらゆる故人へ向けた言葉にも聞こえる。昨年鬼籍に入った本作出演の小松政夫さん、そして大林宣彦さんへも。